(社説)かんぽ生命 再開はゴールではない

社説

[PR]

 かんぽ生命が不正販売の横行を認めてから約1年。調査や処分が進み、自粛を続けてきた営業の再開が視野に入ってきた。だが、問題の根幹である企業統治の改善は、まだ途上だ。

 先週開いた外部有識者による「JP改革実行委員会」は、営業再開の条件は「おおむね満たされている」と評価した。調査や処分に道筋がついたといった見方に加え、顧客と接する中で信頼回復を図るべきだという趣旨の声もあがった。一方で再開に異議はないとしつつ、改革の踏み込み不足を指摘する意見もあった。

 日本郵政によると、保険の乗り換えなどで顧客に不利益を与えた疑いのある約18万件の調査は9割弱が終了。法令違反と認定された郵便局員らが400人強、社内ルール違反が2200人近くに及んだという。

 販売時のやりとりを録音するなどの再発防止の態勢は、整備されてきた。残る案件の徹底調査と、管理職の責任の明確化も求められる。

 最大の課題はガバナンスの変革だ。今年1月に日本郵政、日本郵便、かんぽ生命の社長がそれぞれ交代し、ある程度の体制刷新が進んだ。ただ、取締役の過半を占める社外役員には、不正が横行していた時期の顔ぶれの多くが、6月の株主総会でも再任された。

 社外取締役は執行部が企業価値向上に努めているかを監視する役割を担う。不正販売横行の一義的な責任は執行部にあるにせよ、不正の横行を見抜いて歯止めをかけることが、なぜできなかったのかとの疑問は、社外役員にも向く。執行部からの情報がなかったといった事情もあるだろうが、例えばNHKの番組はかんぽ販売の問題を早い時点で報じていた。

 経済同友会の提言は、社外取締役に求められる行動として、次のように書く。「配布資料には記載されていない経営執行の現状に加え、会社および業界独自の慣行や常識がリスクとして潜在していないかを把握するための『質問力』を磨く」。日本郵政の社外役員には日本商工会議所会頭や経団連の元副会長が名を連ねる。役割を十分果たしてきたか、自問してほしい。

 総務省の前次官が、同じく次官経験者の日本郵政副社長に情報漏洩(ろうえい)していた件の原因究明も、前次官側からの聴取はしていないなど中途半端に終わっている。総務省との関係の透明化も、さらに追求すべきだ。

 もとより民営化の途上にある巨大組織のかじ取りは簡単ではない。中長期的な経営戦略の立て直しも急務だ。営業再開は出発点に過ぎないことを改めて肝に銘じる必要がある。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら