第9回「生きるための薬が買えない」 高すぎる薬価「自由」重んじたツケか

有料記事

ニューヨーク=真海喬生
写真・図版

 世界最高の創薬力を誇る米国。「自由な薬価」のもと、世界シェア4割を占める巨大な医薬品市場がそれを支えてきた。しかし、価格高騰で満足に薬を使えない人も多く、政府は薬価の規制に動き出した。その余波は日本にも及ぶかもしれない。

 「仕事を失えば保険もなくなり、薬を使えなくなる。ギリギリの状況に戻るかもしれない、という不安が頭から消えることはない」

 米バージニア州アーリントンに住むキャット・シュローダー(40)は9歳の時に1型糖尿病と診断された。血糖値を下げるインスリン製剤は「生きるために欠かせない」ものだ。

 だが10年ほど前、勤めていた出版社の業績が悪化して解雇され、やがて保険も失った。高齢者ら一部を除き、米国には公的医療保険制度がない。薬をすべて自腹で購入しなければならなくなった。

 インスリン製剤の費用は月に1千ドル(約15万円)ほど。失業中にまかなえる額ではなかった。

 助けてくれたのは看護師の友人だった。勤務先の病院で余り、廃棄される予定のインスリンをポケットに隠して持ち帰り、渡してくれた。「良いことではないとわかっている。病院に知られれば友人は解雇される。仕事と人生をかけて助けてくれて感謝している」

 本来必要な薬の使用回数を「スキップ」して無保険の日々をしのいだ。次の仕事に就くまでの約9カ月間、携帯電話を握りしめ、友人からの連絡を待つ毎日が続いた。

 「私にとって過去の話ではない。米国では解雇される可能性はいつもある。そうなれば、また薬をどう入手するのか悩む日々が始まる。薬が手に入らず途方に暮れている友人もたくさんいる」

 米国の薬の高さは突出してい…

この記事は有料記事です。残り1914文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

連載資本主義NEXT 復権する国家(全15回)

この連載の一覧を見る