「選挙公報でトランス差別、一線越えた」 杉並区議の人権侵犯を訴え
昨年4月の東京都杉並区議選をめぐり、選挙公報に掲載されたイラストがトランス女性を差別しており人権侵害にあたるとして、区民3人が13日、田中裕太郎区議と区選挙管理委員会を相手取り、東京法務局に人権侵犯の被害を、東京弁護士会に人権救済を申し立てた。
申し立てたのは、トランスジェンダー当事者の会社員鈴木信平さん(45)と非当事者の2人。
申立書などによると、田中区議は各戸に配布される選挙公報に「女性スペースに男を入れるな! 『性自認条例』を改廃し女性の人権を守る」と記し、「オレも女だと言い張れば女湯に入れるのネ!」という吹き出しや、男性を意味する「♂」のマークつきでヒゲを生やした人物を掲載した。杉並区では昨年4月、性を理由とした差別の禁止をうたった条例が施行されていた。
鈴木さんらは、このイラストについて「トランスジェンダーは性犯罪者で、醜く卑しい人物だとの印象を与える」と指摘し、「トランスジェンダーへの著しい侮辱で差別扇動だ」と訴える。性の多様性について一定の議論が許されるとしても、このイラストは「一線を超えている」と主張している。
選挙と差別、都知事選でも問題に
取材に対し田中区議は「申し立ての情報を得ていないので、お答えしようがない」と話した。区選管は「申し立て内容を確認していないので、コメントできない」としたうえで、選挙公報に関する区条例は、他人の名誉を傷つけるなど「選挙公報の品位を損なう文言を記載してはならない」と定めており、「一般論として、これに反しないと判断したものが掲載されている」と説明した。
選挙と差別表現については、2016年の都知事選で候補者が、在日本大韓民国民団の中央本部前で「さっさと日本から出て行け」と演説するなどして問題になった。法務省は19年3月、「選挙運動の自由の保障は民主主義の根幹」としたうえで、人権侵犯の被害申告があった場合は「その言動が選挙運動として行われていることのみをもって安易に人権侵犯性を否定することなく」、内容を十分吟味して判断するよう求める事務連絡を法務局に出している。
杉並区民3人による今回の申し立ては、田中区議には差別イラストを今後使わないように、区選管には田中区議に差別イラストを選挙公報に使わないよう指導するように、法務局と弁護士会が勧告することを求めている。
トランス女性への差別が激化
鈴木さんはこの日の記者会見で「自分の性って何だろうと考え始めた高校時代に、これを見たらどうだったか」と懸念を示し、当事者の子どもたちが目にし、深く傷ついた可能性を語った。
トランス女性に対する差別は深刻化している。トランスジェンダーの権利擁護が進むことで、トランス女性を自称する男性が女性浴場に入ってきて、女性の安全が脅かされるなどと誤解させ、不安をあおる言説が広がる。
公衆浴場については、「男女」を区別するよう定めた厚生労働省の要領がある。同省は「男女は身体的な特徴をもって判断する」と通知しており、自認する性別が女性であっても、男性器のある状態で女性浴場に入れるわけではない。
今回の申し立てには、トランスジェンダーの当事者ではない会社役員金正則さん(69)と、翻訳家池田香代子さん(75)も名を連ねた。差別は社会そのものをむしばむとして、あえて多数派の側から声をあげたという。
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