二階堂友紀

東京社会部
専門・関心分野人権 LGBTQ 政治と社会

現在の仕事・担当

社会部で人権・ジェンダーを担当しています。LGBTQをめぐる取材も続けています。

バックグラウンド

2000年に西日本新聞に入社し、2004年に朝日新聞へ。横浜総局、長野総局、政治部、特別報道部などで記者をしてきました。

仕事で大切にしていること

歴史を記録すること、時代を描くことをめざしています。

著作

  • 『秘録退位改元 官邸VS.宮内庁の攻防1000日』(朝日新聞出版、2019年)=共著
  • 『性のあり方の多様性 一人ひとりのセクシュアリティが大切にされる社会を目指して』(日本評論社、2017年)=共著

論文・論考

  • 『異端者の政治:安倍政権試論』(岩波書店「世界」2021年12月号)
  • 『これは闘争、ではない:LGBT理解増進法案見送り』(岩波書店「世界」2021年8月号)
  • 『「対話」論の陥穽:差別をはびこらせる言説とは』(岩波書店「世界」2018年12月号)
  • 『日本会議、その飽くなき現実主義』(岩波書店「世界」2017年12月号)
  • 『漂流するLGBT法案』(岩波書店「世界」2017年5月号)

タイムライン

記事を書きました

夫婦で受け取った新戸籍 トランス男性は人生を阻んだ「壁」と闘った

 「2人で一緒に裁判所に来てください」  8月30日、家裁から一本の電話があった。  もしかしたら、願いがかなうかもしれない――。東日本に住むアルバイトのトランスジェンダー男性(戸籍上は女性)は、期待を膨らませ、その日を待った。  2023年3月、公務員のトランスジェンダー女性(戸籍上は男性)と結婚した。性自認と戸籍上の性別が「逆転」した状態の夫婦だったため、24年5月27日、それぞれ家裁に性別変更を申し立てていた。  性同一性障害特例法には、性別変更の際に結婚していないことを求める「非婚要件」がある。この要件を機械的にあてはめれば、いったん離婚して性別変更後に再婚するか、結婚を続けて性別変更をあきらめるかを選ばなければならない。  だが、2人は婚姻関係を続けながら性別変更を行う「第3の道」をめざした。背景には、特例法のあり方を問い続けてきた当事者たちの存在があった。 ■ケーキで祝った夜  家裁は電話をした日、2人の審理を併合し、同時に結論を出すと決めていた。その5日後の9月4日。2人に手渡された5枚の審判書には、こうあった。  「性別の取り扱いを、男から女に、女から男に、変更する」  結婚したまま性別変更を認める、極めて異例の司法判断だった。  2人はその日の夜、ケーキを食べて祝った。  「これでやっと、カミングアウト(名乗り出ること)を迫られる状況から自由になれる」  そんな開放感に浸った。  トランス男性はこれまで、生活実態と戸籍上の性別がずれている不自由さに悩まされ続けてきた。それは、人生を阻む高い壁のようなものだった。 ■「漠然とした人生の不一致感」  幼い頃から、「漠然とした人生の不一致感」を抱えてきた。その原因が性別にあると自覚したのは、大学時代だった。  ちょうど、LGBTQ(性的少数者)に関するニュースが増えていた。外見など性的な特徴を変えていくための医療があることや、戸籍上の性別を変更する法制度についても知った。  体の特徴を男性に近づけるため、在学中からホルモン剤の投与を始めた。半年の間に声が低くなり、筋肉がつきやすくなった。周囲からも徐々に男性とみなされるようになり、「人生の不一致感」は薄まっていった。  だが、戸籍上の性別を男性に変えるには、壁があった。性別変更の際、生殖能力の喪失を求める特例法の「生殖不能要件」だ。卵巣を摘出する手術が必要となるが、金銭的な負担も大きく、見送っていた。  たとえ男性として生活していても、戸籍上は女性。生活実態と戸籍がずれているせいで、望まないカミングアウトを何度も強いられてきた。 ■付きまとう「生活実態と戸籍のずれ」  最初の壁は就職だった。  大学卒業後、女性として生きてきた過去を断ち切るため、あえて見知らぬ土地で職を探した。だが、住民票などから戸籍上の性別は分かってしまう。やむをえず、社長に「性同一性障害です」と告げ、男性としての就職をかなえた。  だが、すぐに次の壁がそびえ立った。「社内で暴露されたらどうしよう」という恐怖心だ。  戸籍上の性別を知っているのは社長1人だけ。知り合ったばかりで、深い信頼関係があるわけではない。もし他の人に知られたら、断ち切ったはずの過去が、また追いかけてくる。  当時は、周囲から男性とみなされる自信もなかった。「社長に『生殺与奪』の権限を握られているようなものだった」  そんな頃、SNSを通して出会ったのが、現在のパートナーだ。メッセージのやり取りを重ね、実際に会うようになった。トランス同士でなければ分からない困難を共有できるし、何より一緒に話していると「心地よかった」。  すぐに会える距離に引っ越すため転職し、またカミングアウトを強いられた。ほどなくして会社が倒産。ハローワークに通った。書類の性別欄では、男性にマルをつける。だが、実際に就職となれば再び、戸籍とのずれを説明しなければならない。  病院でも、海外旅行でも、公的な身分証明が求められる場面では、戸籍とのずれが付きまとう。男性としての生活が定着するにつれ、現状への違和感は募った。 ■差した光「一緒に闘っているような気がする」  「わたしの扶養に入る?」  不意にプロポーズを受け、結婚を決めた。非婚要件の存在は知っていた。卵巣の摘出手術を受けていなかったため、性別変更はかなわないと半ば諦めていた。  そんな矢先、ニュースが飛び込んできた。  生殖不能要件は違憲――。最高裁は23年10月、西日本に住むトランス女性の訴えを認めた。この要件は無効となり、手術なしでの性別変更へ道が開かれた。  「特例法のおかしさがあらわになった。自分たちもトランスジェンダーの家族のありようを制約している非婚要件のおかしさを問いたい」と司法の扉をたたいた。  家裁は9月4日付の審判で、非婚要件の前提には、夫婦の一方が性別を変更すると、現行法では認められていない「同性婚の状態」が生じ、異性婚しか認めていない現在の「婚姻秩序」に混乱を生じさせかねないことへの配慮があるとした。そのうえで、2人の場合、同時に性別変更の審判をすれば、同性婚の状態が生じる可能性はないと指摘。たとえ非婚要件を欠いていても、性別変更を認めるのが相当と判断した。  結論としては満額回答だった。「これで再就職しやすくなる」「戸籍とのずれを説明しなくてもよくなる」。ともに変更が認められたパートナーと喜んだ。  ただ、「もっと踏み込んでほしかった」との思いも残った。家裁が、非婚要件そのものに問題があると言及したわけではなかったからだ。  夫婦のうち、片方だけが性別変更を申し立てた場合、非婚要件を理由に認められない可能性は高い。当事者たちは、離婚して性別変更するか、結婚を続けて変更を永久に断念するかという過酷な二者択一を迫られる。  京都家裁では現在、結婚後に女性として暮らすようになったトランス女性が、性別変更を申し立てている。非婚要件は「離婚を強制しており違憲・無効」などと訴え、結婚したまま性別変更を認めるよう求めている。  「一緒に闘っているような気がする」  10月9日、夫婦で地元の役所を訪れ、ともに性別が変更された新たな戸籍を受け取った。  特例法は04年に施行され、五つの要件が「高すぎる壁」として批判されてきた。付則には、3年後をめどに見直しを検討するとの趣旨も記されたが、20年たっても本格的な改正は実現していない。

夫婦で受け取った新戸籍 トランス男性は人生を阻んだ「壁」と闘った

記事を書きました

地方創生「石破さんが旗を振れど…」 鳥取から初の首相、期待と現実

 鳥取砂丘に近い鳥取市福部町(ふくべちょう)の畑に、青々とした葉が広がる。小さなつぼみは、秋が深まると、ラベンダーのような花をつける。らっきょうだ。  「今年は残暑が厳しかったから、花が咲くのは11月かな」と、浜湯山(はまゆやま)らっきょう組合の生産組合長、香川恵(めぐむ)さん(74)。  この町を含む衆院鳥取1区は、1日に鳥取県選出で初の首相となった石破茂氏(67)の地元だ。  昨年9月時点の有権者数は約22万7千人と、全国で最も少ない。参院では鳥取と島根が合区され、一つの選挙区になった。  香川さんはバスの運転手などをしながら、家族でらっきょうを作ってきた。石破氏の遠戚にあたり、地元の親族らでつくる後援会「盤山(ばんさん)会」の一員でもある。  初代地方創生相も務めた石破氏が、こう語るのを何度も聞いた。  「鳥取は50年後、どうなっているか分からない。人口が半減すれば、県として成り立たなくなる。そうならないために何が必要か、ああしたい、こうしたいと自ら提案してくれ。そうすれば応援できる」  そんな言葉に応えるように、香川さんらは2016年、地域の名産品を登録して保護する国の制度を使い、「鳥取砂丘らっきょう」「ふくべ砂丘らっきょう」を売り出した。  登録に尽力してもらったお礼のため、地域の皆で上京すると、石破氏は「良かった、良かった」と喜んだという。 ■安定した収入、でも相次ぐ廃業  砂丘は今でこそ貴重な観光資源だが、いわば不毛の地。かつては桃などが植えられていたが、砂地は保水力がないため、果実が大きく育たない。地元の人たちは試行錯誤の末、痩せた土地でも育つらっきょうの栽培を広げてきた。  だが、7~9月に行う植え付け作業は過酷だ。数日前から夜間にスプリンクラーで水をまくため、砂地の畑は蒸し風呂のようになり、地表の温度は60度を超える。  「年々暑くなって、とってもこええ」。22歳で結婚して以来、中心を担ってきた妻の佐江子さん(75)は言う。  高齢化で、収穫後にらっきょうの根を切る「切り子」の確保にも苦労している。  40年ほど前、この地域には225戸のらっきょう農家があったが、56戸に。この1年でも後継者のいない2戸が廃業した。  水害に強く、安定した収入が見込めるが、将来は見通せない。  「石破さんが旗を振れど、結果が出ていないのが鳥取の今。首相になってからに期待したい」と香川さん。  ただ、非主流派だった石破氏は党内基盤が弱い。「田中角栄元首相の地元には『角栄橋』みたいなものがあるでしょう。石破さんにはそれがない。もっと、わしが作ったと言えばいいのに、真面目すぎる」 ■シャッターの目立つ商店街  鳥取駅から県庁に続く目抜き通りの商店街。石破氏も事務所を構え、扉には「私は建て直す! 日本を、地域を、自民党を!」と書いてある。  だが、平日の昼間でもシャッターが目立つ。  洋服店「辻商店」を営む辻和宏さん(63)も「少しずつ、上手にしまっていければと思っています」と打ち明ける。  祖父が呉服屋として始めた店だ。従業員を10人ほど雇っていた時代もある。名古屋の大学を卒業後に働き始め、約15年前に後を継いだ。  2人の子に継がせようと考えたことはない。  「商店街というものが、なくなっていく時代ですから」。アーケードの維持管理も難しい。  半世紀にわたり、鳥取の経済を牽引(けんいん)した三洋電機が11年、パナソニックの傘下に入って事実上消滅した後、衰退が進んだと感じる。  「地方創生と言っても、企業を誘致して若い子が残れるようにしてやらんと始まらん」  友人と映画館をのぞいていた高校1年の女子生徒(15)に、将来地元に残るつもりか尋ねると、「無理。不便だから」と返ってきた。 ■「実った5度目の挑戦、あやかりたい」 神社に  石破氏は8月、「地元中の地元」という同県八頭町(やずちょう)の和多理(わたり)神社で、住民ら約300人が見守る中、自民党総裁選への立候補を表明。子どものころの夏祭りの思い出に触れ、「今、人はいなくなり、夏祭りもなくなった。もう一度、にぎやかに、みんなが笑顔で暮らせる日本を取り戻して参ります」と述べた。  兼業農家の50代の男性も神社に駆けつけた一人だ。  「自民党というより、茂さんを応援してきた。『石破さんが首相になって良かった』と、最後に思ってもらえるような政治をしてほしい。それが地元の思いです」  石破氏が国会で首相に指名された1日午後。同県智頭町(ちづちょう)の杉村正裕さん(52)は、石破氏の5度目の挑戦が実った場所と知り、参拝に訪れた。  33年間務めた会社を辞め、第二の人生を模索している。「真っすぐで正論を曲げない石破さんのまま、首相の仕事をしてほしい。ぶれたら見放される」と話した。  この日、県内外からの参拝客が途切れ途切れに続いた。

地方創生「石破さんが旗を振れど…」 鳥取から初の首相、期待と現実

記事を書きました

経産相、「女性トイレ制限」見直し明言せず トランス女性の職員巡り

 経済産業省がトランスジェンダー女性の50代職員に対し、勤務階から2階以上離れた女性トイレを使わせたのは「違法」と判断した最高裁判決後も、この制限を続けている問題で、斎藤健経産相は24日の閣議後会見で、制限を是正するかどうか答えなかった。  最高裁は、経産省の対応に問題はないとした2015年の人事院の判定を取り消し、トイレ制限は遅くとも判定の時点で「違法」だったと判断した。斎藤氏は「人事院が判定の見直しについて検討を進めている。LGBTに関する理解醸成の取り組みを継続しつつ、人事院の検討状況を踏まえ、適切に対応していく」と語った。  林芳正官房長官も同日の会見で、是正措置をとるかどうか答えず、「現在、解決に向けて人事院と経産省で対応している」と述べた。そのうえで、「LGBT理解増進法に基づく取り組みを含め、多様性が尊重され、性的マイノリティーもマジョリティーも全ての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向けて取り組んでいきたい」とした。 ■専門家「直ちに制限を是正すべきだ」  日本大学の鈴木秀洋教授(行政法)は、判決後も制限を続ける国側の対応について、「法の支配に基づく行政の原理からして許されない。理解醸成を図ることは重要だが、対応を放置する理由にはならない。直ちに制限を是正すべきだ」と批判する。  当事者団体Tネットの野宮亜紀共同代表は、職員が14年前から女性として勤務している点に触れ、「女性として長年暮らすトランスジェンダーに対し、職場で使える女性トイレを限定することは、他の女性たちとの差異をあえてつくり、『特殊な存在』という烙印(らくいん)を押し続ける行為に等しい。こうした差別的な取り扱いによって、性別移行したことを知らない同僚へのアウティング(暴露)につながる恐れもある」と指摘する。  超党派のLGBT議員連盟事務局長を務める公明党の谷合正明参院幹事長は取材に、「最高裁判決後も、いまだに運用が変わっていないのは問題だ。経産省と人事院に説明を求めたい」と語った。

経産相、「女性トイレ制限」見直し明言せず トランス女性の職員巡り
有料会員登録でもっと便利に  記者をフォローしてニュースを身近に