ダムの効果は疑問 球磨川の治水計画資料、元国交省技官が分析

今村建二
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 2020年の熊本豪雨をきっかけに建設への動きが復活した川辺川ダムに反対する市民団体が20日、熊本県人吉市で集会を開いた。国土交通省技官として河川行政に取り組んできた宮本博司さん(71)が講演。球磨川の河川整備計画を分析した上で、川辺川ダムを軸にした治水計画に疑問を投げかけた。

 宮本さんはかつてダム建設を進める仕事を担ったが、問題点に気づき、ダムによらない治水を追求。近畿地方整備局の淀川河川事務所長や国交省防災課長などを務め、06年の退官後も、住民の意見を反映させる淀川水系流域委員会の委員長に就き、08年に淀川水系のダム建設の見直しなどを求める意見書を出した。

 宮本さんは国が策定した球磨川の河川整備計画などの資料を分析。さらに球磨川河口部の八代市から球磨村、人吉市とさかのぼり、川辺川ダムの建設が予定される相良村、水没予定地の五木村までを18~19日に視察し、講演に臨んだ。

 治水計画を立てる上で国は、人吉地点に降る大雨を80年に1度の規模と想定している。宮本さんは「自然現象なのでいつ、どういう規模で起こるかはわからない」と述べた。

 その上で、球磨川の計画は人吉の雨量を12時間で298ミリと想定した。ただ、この数字を算出するための統計分析には、20年豪雨で記録した322ミリの雨量データが含まれていない。

 宮本さんはこうしたことを指摘して、「20年豪雨を対象に含めると、川辺川ダムが完成しても水を安全に流すことができないからだ」との見方を示した。

 また、ダムが完成すると川の氾濫(はんらん)で浸水するエリアが人吉市周辺ではなくなるとするシミュレーション結果も国は資料で示しているが、宮本さんは「この分析には『堤防決壊や内水は考慮していない』という条件が資料に記されている」と指摘した。

 関連死を除いて20人が水害で亡くなっている人吉市内の被害について、市民団体は「支流などの氾濫による内水被害による」と主張している。

 実際に現地を視察し、市民が撮影した当時の映像も見て「人吉の被害は支流の氾濫の影響」と感じたという宮本さんは、シミュレーションの記載を引き合いに「住民の命に向き合っているのか」と国の姿勢を問題視した。また、こうした分析を踏まえた上で、「役所は一度決めたことにこだわる。現場の事実に目を向け、住民の命と豊かな自然を守る地域づくりに役所に取り組むようにさせるには、住民力こそが必要だ」と呼びかけた。(今村建二)

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