森の保全と林業、両立するには 豪雨被災の球磨川流域で考える

今村建二
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 球磨川流域では、大きな被害が発生した2020年の熊本豪雨を機に、河川だけでなく地域全体で災害に備える「緑の流域治水」の取り組みが進む。中でも「森林」はこの取り組みの中核を担う。地域の基幹産業の林業を栄えさせつつ、流域を守る森林の保全の仕方とは。研究者や市民が、2年半の取り組みを踏まえて意見を交わした。

 意見交換は熊本県人吉市肥後銀行人吉支店の会議室で12月16日にあった。

 南九州は全国有数の林業が盛んな地域だ。人吉・球磨地域は熊本県の林業生産の約4割を占めるという。

 そんな人吉・球磨地域の森を40年見て回る環境カウンセラーの靎(つる)詳子さん=八代市=が、豪雨後の森の現状を報告した。今回の被災の現場では、「本流が氾濫(はんらん)する前に山の方から大量の土砂が流れてきたり、大量の倒木が発生したりしている」と指摘。原因としてシカによる木々の食害、伐採した木材を搬出する林道の崩落が考えられるとした。

 靎さんは「山全体の保水力の低下が根本の問題」としたうえで、シカの捕獲を増やしたり、大規模な伐採ではなく間伐を繰り返す「自伐型林業」を進めたりすることが、直近の災害対策には必要ではないかと問題提起した。

 それを受け、森林と災害が専門の東大大学院の蔵治光一郎教授が「森林の保水力と木材ビジネスは両立できるか」と題して話した。

 蔵治教授は「生産性のみを指標とする木材生産は伐採に重きを置くので、森林保水力とはトレードオフの関係(両立しない状態)になる」としたうえで、「皆伐ではなく間伐にするなど、伐採の作業にひと手間加えることで保水力の喪失は抑えることができる。だが、生産性は落ちる。そこをどうするかが課題」と話した。

 会場からは「自伐型林業に補助金は出ないのか」と質問が出た。県の球磨地域振興局の担当者からは「自伐だから特に補助するというのではなく、林業全体の補助金の中に位置づけられる」と現状を説明した。

 翌日は山江村の森に実際に赴いた。山江村は自伐型林業に取り組む事業者を育てようと、1年かけて林業塾を開いた。組合長の松本佳久さん(73)が参加した城内生産森林組合では、塾での学習を実践に移している。

 塾では、崩落しにくい林道づくりを学んだという。道づくりで伐採した木の根株は、路肩補強のために現場に残すほか、斜面を流れる水が一定の場所に集中して崩落を誘発しないよう、道に傾斜をつけたりカーブをうまくつけたりして表流水を分散させる、といった「コツ」を紹介した。

 バイオマス発電の燃料にもなるとして、切った木は枝葉まで重宝されるが、「枝葉は森に残した方が保全につながる」との説明に、参加者からは「全部利用するのはいいことだと思っていた。認識がまったく違った」と驚きの声が上がっていた。

 松本さんによると、組合ではこうした道づくりを進め、間伐を中心に森林経営を進める計画という。「『子孫に美田残さず』というが、間伐で残した樹木は100年、200年と育て、子孫に美しい森を残したい」と話した。(今村建二)

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