コブクロも快諾 ローカル線の60周年記念動画に込めた願い
利用者数の低迷が続き、ここ数年は災害で毎年のように不通になってきたローカル線が南九州にある。そんな存続も危ぶまれるJR日南線(宮崎市―鹿児島県志布志市)が全線開業から60周年を迎え、沿線自治体が記念動画を公開している。動画制作の背景には、関係者の路線維持への危機感と、ふるさとを思う心があった。
日南線は志布志―北郷(宮崎県日南市)が1941年に開業後、63年5月8日に北郷―南宮崎が開通して88・9キロの全線が開業した。海岸線や山間部を抜ける区間を旧国鉄時代の車両キハ40系が現役で走る。1、2両編成のほぼ非電化の路線で、観光特急「海幸山幸」も通る鉄道ファンに愛されるローカル線だ。
ただ、自家用車の普及などで近年は利用客が低迷。2022年度は1キロあたりの1日の平均利用者数が1千人未満の914人(田吉―油津)。同区間は赤字幅がJR九州管内でも最大の6億7800万円だった。
また、日南線は台風や豪雨災害のため、毎年のように土砂崩れが発生して線路が寸断されてきた。昨年も9月の台風14号で一部が不通になり、今年3月になって全線での運行が再開した。全線開業60周年はその2カ月後に迎えた。
動画を制作したのは、日南線の利用促進連絡協議会をつくる沿線の宮崎市、日南市、宮崎県串間市、志布志市。協議会事務局の日南市の担当者は「利用客にとっては生活に必要な路線で、なくてはならない公共交通。映像を通してJR九州と利用客に感謝を伝えたかった」と話す。
動画は、女子高校生が通学する際に出会う人や風景を通して、60年前の高校生が結婚して老夫婦になったと思う不思議な体験を描く内容。日南市の大堂津駅とそこからの車窓風景が使われ、2分間の中に沿線4市の風景も盛り込まれた。
実際に動画を企画したのは、今年6月に東京から日南市に自身の会社を移した広告クリエーターの志伯健太郎さん(48)。人間なら還暦を迎える60年という時間を描こうとした。コンセプトは「少し枯れた感じもありながら、明るい未来」。日南線の主な利用客で、通学に使っている中高生を主役にしたという。
ローカル線の動画だが、全国的な広がりを持たせる仕掛けも考えた。主演は宮崎市出身の俳優高石あかりさん(20)、テーマ曲は人気デュオ「コブクロ」の「風」を起用した。コブクロはメンバーの小渕健太郎さんが宮崎市出身。どちらも志伯さんが正面突破で打診すると、「地元のためなら喜んで。いいですよ」と出演と楽曲の使用を快諾してくれたという。
志伯さんは「地方にはいろんな宝が眠っている。日南線の車窓からの風景は、見事としか言いようがない。全国の人に価値を知ってもらいたかったし、地元の人にも日南線の良さを再発見してほしかった」。
動画の最後はこんなメッセージで終わる。「日南線60周年、おめでとう/いつも、ありがとう/この先も、たくさんの愛と、共に走ろう」
動画は日南市の公式ユーチューブチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=11V2pAJVm1k)で公開されている。(平塚学)…