「投資」に必要な精神の働き 長寿化社会を生きることはたやすくない

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経済季評 慶応大学教授・坂井豊貴さん

 いまから20年ほど前、私は大学に就職して初めて授業をもった。当時は小泉政権で、年金が政治の一大争点であった。私は年金を扱う授業で、この制度の一つの利点として、長生きリスクへの備えを挙げた。

 当時、この長生きリスクという言葉には逆説的な響きがあった。私たちが望ましいものと捉えている長生きが、実は経済的リスクという望ましくないものを伴うという意味でだ。当時の教場では、その逆説性が新鮮に受け取られていた。

 だがいま、この言葉に新鮮さはない。長生きはリスクであることが、とうに通念として定着したからだ。

さかい・とよたか 1975年生まれ。慶大教授。米ロチェスター大博士。専攻はメカニズムデザイン。主著に「多数決を疑う」。

 人類の寿命は延びた。国連の推計によると、世界全体の平均寿命は1950年の約46歳から、2021年には約71歳に延びた。日本は長命国で、厚生労働省の簡易生命表(22年)によると、平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳だ。

 私たちはこれほどの長命化社会を経験したことがないし、各人は人生の長期化に備えざるを得ない。近年の生命保険契約はこうした時代変化を反映しており、死亡保障を抑え、医療保障を充実させる人が増えている。

 人類が長命化していくなか…

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