雑魚寝解消できる? 南海トラフ地震 最大被害想定で足りないベッド
避難所での「雑魚寝」解消に不可欠な災害用ベッド。政府は、発災初期からのベッド設置を呼びかけ、自治体への財政支援を強化したが、全国の備蓄は不足している。1995年の阪神・淡路大震災当時から「避難所の質が改善していない」と指摘される中、企業と専門家が避難所運営の新たな実験に乗り出すなど、民間の動きも始まっている。
国は、災害対策基本法などを根拠に、災害用ベッドなどの物資は自治体が備蓄する、とする。では、備蓄は足りているのだろうか。
昨年1月の能登半島地震では、避難所の簡易ベッドや段ボールベッドが不足し、体育館や廊下で「雑魚寝」せざるをえず、感染症が広がった。専門家による検証報告書は備蓄不足を指摘し、国に全国調査を求めた。
内閣府の調査で「ベッド11人に1台」と判明
1月公表の内閣府の調査では、全自治体の備蓄状況は、毛布が約1472万1千枚に上る一方、段ボールベッドと簡易ベッドは計約57万5千台にとどまることが明らかになった。
一方、国が3月31日に公表した南海トラフ地震の被害想定では、発災から1週間後に避難所に身を寄せる人は最大で全国646万3千人に達する。単純計算で、ベッドは11人に1台しかない。
都道府県ごとに想定されている最大の避難者数で、それぞれのベッド数を割ると、愛知、三重、宮崎の各県がいずれも1人あたり0・02台で、50人に1台ほどだ。
九州で最も多い23万2千人が避難所に身を寄せると想定される宮崎県は「財政負担のほか保管場所の問題もあり、市町村が必要量を確保するのは難しい」(中尾慶一郎・危機管理局長)。段ボールの業界団体や九州の他県や山口県と協定を結んでおり、不足分について発災後の調達をめざす。
静岡、滋賀、大阪、徳島の1府3県は0.03台で33人に1台、京都、奈良の1府1県は0・04台で、25人に1台しかない。想定避難者数が少ない関東甲信越でも、山梨県が0・3台、神奈川県が0・5台にとどまる。
1995年の阪神大震災以来、避難生活の中で命を落とす「災害関連死」を防ぐため、避難所の環境改善の重要性が指摘されてきた。
中でも、床との距離を空けるベッドは、床に付着した病原菌や、ほこりの吸引によるせきなどの飛沫(ひまつ)による感染症への罹患(りかん)防止に役立ち、清潔なトイレや温かい食事と共に、被災者の健康を守るために不可欠とされる。雑魚寝よりも寝起きがしやすいため、活動量が低下しにくくなり、エコノミークラス症候群の防止にも役立つといわれる。
石破政権は避難所の質の向上を重要施策に掲げる。昨年には自治体向けの指針を改定し、避難所の開設段階からベッドを設置するよう自治体に求めた。内閣府は1千億円の地方創生交付金の一部を使って、自治体がベッドなどを購入する際の半額補助を始めた。
■13億円を投じてプッシュ型…