アミーゴはアミーゲ? スペイン語の「男性」「女性」に生じた変化

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ブエノスアイレス=軽部理人

 突然だが、「友達」を意味するスペイン語はご存じだろうか。

 正解はamigo(アミーゴ)だ。

 スペイン語に詳しくない日本人でも、多くの人が耳にしたことがある単語だろう。

 だが「女友達」の場合、amiga(アミーガ)に変化することはあまり知られていないのではないか。スペイン語の「男性形」「女性形」だ。

 日本語や英語が母語の人にとってはなじみが薄いが、スペイン語やフランス語、ポルトガル語などのラテン語系言語では、多くの名詞、形容詞が男性形、女性形に分かれている。

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 スペイン語では、例えば「私の男友達」はmi amigo、「女友達」はmi amigaだ。「背が高い男の子」はniño(男の子)alto(高い)だが、「女の子」の場合はniña altaと形容詞まで女性形に変わる。

 ところが近年、言葉を男女で分けることを避ける「インクルーシブ・ランゲージ」(包摂的言語)が一部で使われているという。一体どういうことなのか。「南米のパリ」とも呼ばれるアルゼンチンの首都ブエノスアイレスに向かった。

oとaの代わりにx,e,@

 中心部にあるブエノスアイレス大学は、アルゼンチンの最高学府だ。キャンパスを訪れると、勧誘チラシや元サッカー代表のマラドーナの写真などが貼られた掲示板が至る所に立つ。キューバ革命を主導したアルゼンチン生まれのチェ・ゲバラの壁画もある。

 その中で一つの貼り紙が目についた。

 AQUÍ TODXS SOMOS

 「ここでは我々全員だ」といった趣旨だ。

 todxsは「みんな」を意味する複数形の言葉。本来はtodos(トードス・男性形)とtodas(トーダス・女性形)として頻繁に使われるが、この貼り紙では男女の別を示さない“x”が使われていた。

 別の場所には、“COMPAÑERXS DE UTOPÍA”と書かれた学生運動のポスターがある。「ユートピアの仲間たち」の意味だが、「仲間」を意味する単語の複数形は本来compañeros(コンパニェーロス・男性形)かcompañeras(コンパニェーラス・女性形)。だが、ここでも、“x”だ。

 これがインクルーシブ・ラン…

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この記事を書いた人
軽部理人
サンパウロ支局長|中南米担当
専門・関心分野
中南米の全分野、米国政治や外交
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    磯野真穂
    (東京工業大学教授=応用人類学)
    2023年9月30日8時58分 投稿
    【視点】

    言語学者でブエノスアイレス大教授のダイアナ・ペレスさんが記事内でおっしゃるように、ジェンダーに関する問題の難しさは、ジェンダーのことを話しているようで、実際は違うことが話されていることがままあることです。 この記事にあるように、元々は

    …続きを読む