災害時のX発信、曲がり角 仕様変更で投稿にハードル…代わる手段は

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田渕紫織 村井七緒子

 大雨による災害時に、自治体などがX(旧ツイッター)で避難情報を発信できなくなるケースがこの夏、相次いだ。日本では、東日本大震災を機に、災害情報の伝達手段として広まってきたX。何が起きていたのか。

 Xは今年2月、それまで大部分の利用者が無料で使えていた「API」と呼ばれる仕組みを有料化すると発表した。APIはサービスを外部システムとつなぐもので、自動投稿やツイート分析などを可能にする。

 3月末に発表した新しい料金プランでは、月1500件まで無料で投稿できる。それ以上はAPIへの接続回数などに応じて月100ドルや月5千ドルのプランへの加入が必要になった。

 多くの自治体は、APIを使って災害時の情報を自動投稿している。台風など危険が迫っている状況では投稿が増え、すぐに利用上限に達してしまう。

 熊本県(@Bousai_Kumamoto)は、7月上旬の水害の際、発信を止めた。「県内45市町村の避難所などの情報を自動投稿しているとすぐ上限に達した」(時松昌徳・情報通信班長)ためだ。投稿が滞留し、連携させている他のシステムにも影響が出た。

 停止中にも台風被害があった。「有料プランも検討したが、いずれにせよ上限がある。頻繁に仕様変更されるので、安定運用できるかも見通せなかった」という。下旬には、アカウントが凍結される事態も起きた。

 Xはイーロン・マスク氏による買収後、仕様変更や急な利用停止が相次ぐ。7月には熊本県以外にも、岩手県花巻市や大分県佐伯市などのアカウントも同時期に凍結された。後に解除されたが、具体的な原因は明らかにされていない。

 前もって投稿を控えた自治体もある。宮城県(@miyagi_bosai)は、X社による仕様変更の発表を受けて、2月から自動投稿をしておらず、新規の投稿がほぼ止まっている。担当者は「元々Xは複数ある手段の一つ。大きな影響はないので、やめるかどうかも含めて検討していく」と話す。

 JR東日本は、運行情報を伝えるアカウントの最上部に、「Twitter APIの有料化への対応を検討しているため、最新の運行情報が反映されない場合があります」と投稿。現時点で混乱は確認されていないというが、「昨今、仕様変更が頻繁で、表示されない可能性に備えて」(担当者)投稿したという。

 一方、東京都が防災のために発信するアカウント(@tokyo_bousai)では手動で投稿していることもあり、仕様変更の影響は「受けていない」という。担当者は、「195万人ほどいるフォロワーに届ける意識で発信しているので、今後も続ける」と話した。

 混乱を受け、Xの日本語公式アカウントは8月15日、政府や公的機関からの防災・災害情報は「APIの無償利用が可能」と発表。熊本県などは投稿を再開した。

記事後半では、専門家による効果の分析や、Xに代わる手段をとっている市町村や企業の具体例をお伝えします。

 だが、防災情報の発信は公的機関に限らない。195万フォロワーを抱える「特務機関NERV(ネルフ)」(@UN_NERV)。運営する情報セキュリティー会社ゲヒルンの石森大貴社長が、東日本大震災で故郷の宮城県石巻市が被災したのを機に、ツイッター(当時)で防災情報の発信を始めた。アカウント名は、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に出てくる組織名からとった。

 ゲヒルンは月100ドルのプ…

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