戦争とは、平和とは ウクライナで、ウクライナ人と考える
教会の近くを出発した4台の黄色いバスは、連なって街の中心部を走る。石畳の道路に、車体はよく揺れる。
私の乗っていた最後尾のバスは、冷房が利いていなかった。その日、気温は27度。暗いトーンの服に身を包んだ女性のすすり泣きが聞こえる。汗と涙を一緒にぬぐっている。
7月5日、ウクライナ西部リビウ。
沿道では市民がバスの車列に弔意を示すため、片ひざをつく。あるいは右手で十字を描く。額、胸、右肩、左肩。カフェの店員も客も、犬の散歩中の老人も。
バスは墓地に着く。葬列の先頭を走っていたバンから、あどけなさの残る若いウクライナ兵6人が、ひつぎを運び出す。
ビクトリア・アメリーナさん。享年37。
6月27日、ウクライナ東部クラマトルスクのレストランで食事中、ロシア軍によるミサイル攻撃に遭った。懸命の治療も実を結ばず、7月1日、病院で息を引き取った。
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リビウ出身のアメリーナさんは、注目の若手作家だった。小説や児童書を出版し、多数の言語に翻訳されていた。昨年2月にロシアの全面侵攻が始まってからは人権団体「真実の猟犬」に所属し、ロシアの戦争犯罪について記録していた。
墓地ではアメリーナさんの遺影に向かって、友人たちが言葉をつむいだ。
最後の対面、語った将来像
「こういう葬儀に慣れること…
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