プラチナ住所、かわいげ、相性も? 選ぶ側の都合で変わる「能力」
Re:Ron連載「よりよい社会」と言うならば(第2回)
暑い。夏が来れば思い出す――。ある企業でサマーインターンシップの選考をお手伝いしていたときのことを。
大学院で教育社会学を修めたあと、「敵地視察の就職」と称して、人材・能力開発業界へ飛び込んでいった私だが、採用という現場は特に感慨深かった。「P.ブルデューが見たらなんて言うだろか」と思いながら、履歴書やエントリーシートにある、「休暇中の連絡先」(「現住所以外に連絡を希望する場合」もある)という実家住所記入欄を眺めていた。今日はそんな話からしようと思う。誰しも様々な立場なりに、近しい経験があるのではないかと思っている。
いつかの、梅雨が明けるか明けないかの、とても暑い日。創業者の写真が大きく飾られた大会議室で私も、SPI(能力・適性検査)の結果一覧とエントリーシートとをずらりと並べながら、1次通過(○)・ボーダー(△)・不採用(×)の三つの山に「分け」ていた。部長である採用責任者が、確認のため最後に、×の山をパラパラと見返して、これにて会議終了、となりかけたときのことだった。採用責任者が皆の視線を集めるように声を発した。
「おいおい、この子、落とすところだったよー。プラチナ住所、気づかなかった? ダメだよこういうのをちゃんと見なきゃ」
プラチナ住所? 意味がわからなかった。
「実家住所にさ、○○○ヒルズって書いてあるでしょう?」
離れたところで作業していた人もいそいそと見えるところに集まる。不合格にすべきでない人をしていたのなら大変な落ち度だ。後学のために皆、真剣に確認する。
「わお、ほんとだ、失礼しました」と謝る人もいる。すかさず、「これは高級マンションの中でも最高級。ハイソの中のハイソ」と採用責任者。「賃貸でもファミリータイプならここは、家賃は月200万円はしますよね」と相場情報を付言する人までいる。そして、採用責任者はこうとりまとめ、「リーダーシップ」を発揮した。
「これは親がなにがしだ、ってことだよ。いいか、この『成功者』のご子息、落としちゃだめだよ。面接に呼ぼう。ウチ(の会社)ときっと合うと思うなぁ。評価項目の『カルチャーフィット』(企業文化との親和性)のとこさ、◎に変えておいて」
私もご多分に漏れず、恥ずべきことだが、その場にいた誰一人、「この採用プロセスって問題ないんでしょうか」とは言わなかった。
ちなみに、そのとき選ばれた人は、職務遂行に適切な「能力」を備えていたようで、その後の面接もパスし、入社。順調にその企業で昇進していると風の便りに聞く。採用責任者の「人を見る目はたしかだった」、そういうことかもしれない。
他方、片親に育てられ、「早く一人前になって支えてくれた人に恩返しがしたい」と語る就活生もいた。地方出身。公立小中高を経て塾にも行かず(というか予備校はなかったらしい)、大学は某名門国立大学という猛者らしい。学力はもとより、野心、明確かつリアルな仕事への動機もあって、1次通過だと私は思ったのだが、先の採用責任者はこう言う。
「優秀だろうけど、やめておこう」
今回こそは意を決し、二の句を継いでみた。「あの、ちなみに、どういう点が、ってありますか?」と。
「え? わかんないの?」と…
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