ライチョウ野生復帰に切り札 生息地で採取したフンを那須で餌に

小野智美
[PR]

 那須どうぶつ王国(栃木県那須町)が参画する国の特別天然記念物ライチョウの復活事業で、野生個体のフンを活用して同園の個体に腸内細菌を獲得させる取り組みが進んでいる。「動物のウンチ博士」として知られる中部大学応用生物学部長の牛田一成教授に、ねらいを聞いた。

 ライチョウのフンは2種類。固形状の「直腸フン」とチョコレート状の「盲腸フン」で、今回使うのは後者だ。

 野生個体のフンの採取は難しい。生息地の標高3千メートルの山々を探し歩くことになる。「環境省信越自然環境事務所が生息調査のついでに見つけたら採取し、冷蔵便で送ってくる。ついでなので、最近は5月初めにフン1個分が試験管1本で届いたきり」

 届いたフンは、フラスコの中で希釈してから凍らせる。凍らせたまま乾燥させると、パラパラの粉末ができる。粉末を餌1回分に小分けし、野生復帰候補の個体を飼育中の那須どうぶつ王国と茶臼山動物園長野市)に送る。

 昨年初めて両園で粉末を与えた。那須どうぶつ王国の飼育リーダーの荒川友紀さんによると、今年も卵の孵化(ふか)1週間前からリンゴやコケモモにふりかけて母鳥に与え、ヒナにも生後2週間まで与える予定だ。

 ポイントは粉末に含まれる腸内細菌。「口から胃を通って盲腸までたどりつけば、増殖するはず」と牛田教授。野生のライチョウの盲腸には500種類以上の細菌がいて、高山植物の消化を助けるという。

 誕生時のヒナの盲腸は無菌状態。生後数日は免疫力で生きのびるが、免疫力を使い切る頃から約10日間、ヒナは母鳥のフンを食べて腸内細菌を獲得する。親のフンを食べて腸内細菌を獲得するのは、草食動物によく見られるパターンだ。「典型例がシマウマやサイ。コアラに至ってはおなかの袋の中にいる子にドロドロのフンを食べさせている」

 しかし、餌が異なる野生下と飼育下では腸内細菌は「似ても似つかないものになる」。そこで切り札となるのが、野生個体のフンの粉末だ。在庫は100回分しかない。「一年中、盲腸フンを出すわけではない。主に4~7月。餌を大量に食べる産卵前の雌でも1日たった2回しか出さない。なるべく新しいものが望ましい。計画立てたフンの採取を考えるべきだろう」

 牛田教授は「フンをまるごと与えちゃうというのは、細菌学者としては敗北ですけれど」とも打ち明ける。「本当はライチョウの腸内細菌をカタログ化して、必要に応じて提供できる体制にしたいが、細菌のなかには、毎年頑張ってもつかまえられないものがある。細菌の分離に使う培養器具が元々は人間や家畜のために開発され、鳥用ではないので、工夫しても全く歯が立たない」と言う。

 研究は尽きない。(小野智美)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【本日23:59まで!】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら