グローバル化で起きた「徳」の失墜 民主主義を鍛え直せ 牧原出さん

有料記事

聞き手・駒野剛
[PR]

 ベルリンの壁に象徴された東西分断が終わり、グローバリゼーションが世界を席巻し始めてから約30年。世界の経済はつながり豊かになったが、その一方で社会の分断は進み、国際的な対立も激しくなっている。新たな壁が地球を覆うのか。我々は何をなすべきか。国内外の政治や行政を見つめ続けてきた牧原出さんに聞いた。

まきはら・いづる 1967年生まれ。2013年から東京大学先端科学技術研究センター教授。専門は政治学、比較行政学。著書に「田中耕太郎」「権力移行」など。

 ――グローバリゼーションが生み出した変化とは何でしょうか。

 「東西世界を引き裂いていた『壁』が崩壊して冷戦が終わった時、最大の問題は旧ソ連、旧東欧圏の国々をどうやって民主化するか、そして資本主義に取り込むかでした。私が大学の研究員として英国に向かった2000年から数年は、EU(欧州連合)で共通通貨ユーロ導入が本格化した時期です。これら旧社会主義圏の取り込みによるEU拡大を、フランス官僚制の枠組みで、ドイツ連邦制の手法で、英国は投資先の広がりとして捉えているとまで報じられていました」

 「当時、グローバル化には希望がありました。ピュリツァー賞受賞者の米ジャーナリスト、トーマス・フリードマンの著書『フラット化する世界』がこの頃出版されます。そこでは、中国やインドの経済成長をインターネットが促す結果、世界経済は一体化し、どこでも共通の条件で競争できる、という世界が描かれていました」

 「しかし、その後の現実は異なりました。中間層が縮小し、現代化に向けた改革も世界標準を喪失し、各国独自の方向を探らざるを得なくなりました。経済成長を前提とする『希望のグローバル化』も、成長エンジンだった中国は鈍化し始め、インドもそれに代わるだけの力が見えません。コロナ禍とウクライナ戦争は、そうしたマイナス面を推し進めました」

 ――結局、プラス面よりマイナス面が大きかったのでしょうか。

 牧原さんが「危険水域」にまで及んでいると語るグローバル化の弊害と、その処方箋は。「徳」を一つのキーワードに論じています。

 「グローバル化の結果、19…

この記事は有料記事です。残り3387文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    市原麻衣子
    (一橋大学大学院法学研究科教授)
    2023年6月28日5時0分 投稿
    【視点】

    現在も米国を民主主義のモデルと見ている人が、世間にはあまりにも多い。そのように見ている人たちは、米国で経済格差が拡大し、分断が固定化し、真実さえ分かりにくくなっていることを受けて、民主主義自体に対する失望感を強めている。先進民主主義国の中で

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    三牧聖子
    (同志社大学大学院准教授=米国政治外交)
    2023年6月28日10時29分 投稿
    【視点】

    ドナルド・トランプやボリス・ジョンソン。民主主義国のリーダーでありながら、貴族であるかのように振る舞った「徳」なき欧米の首脳たちは、再選に失敗したり、辞職せざるを得ない状況に置かれ、政界を去った。トランプ前大統領は連邦政府の機密文書を私的に

    …続きを読む