性的マイノリティーの権利、日本と海外の現状は G7の議論に注目

編集委員・石合力
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 LGBTQなど性的マイノリティーの権利について5月に広島で開かれる主要7カ国首脳会議G7サミット)での議論に注目が集まっている。議長国日本はG7の中で唯一、同性カップルに対して国として法的な権利を与えず、LGBTQに関する差別禁止規定を持たないからだ。常設のLGBTQセンター「プライドセンター大阪」を運営する村木真紀さんと在京都フランス総領事のジュール・イルマンさんに日本と海外の状況について聞いた。

 村木 LGBTQの人たちは元々非正規雇用が多く、メンタルヘルスの問題を抱えている人も多い。コロナウイルスの感染拡大で女性の解雇が多かっただけでなくLGBTQの人も影響を受けた。日本には、性的マイノリティーに対する差別禁止などの基本法がないので担当省庁もない。プライドセンター大阪には、学校や職場、医療現場や就業支援の場で差別されたという相談もある。本来ならNPOではなく、国や都道府県が指導しなければいけないことではないか。

 イルマン フランスには、LGBTQの担当大使がいる。同性愛同性婚が禁じられ、犯罪になる国に外交的に立ち向かっていくことが役割です。各国にあるフランス大使館にもLGBTQの担当者がいます。

 村木 岸田文雄首相は、同性婚について「社会が変わってしまう」と発言したが、この20~30年の歴史で見てきたことは、LGBTQの権利が認められれば、社会はいい方に変わるということです。同性婚について世論調査では約6~7割が賛成している。認められる前にこれだけ賛成が多かった国は実はありません。

 イルマン フランスでは80年代にゲイとレズビアンの権利擁護運動があり、その後、法整備も進みました。同性愛者への差別や否定的な言動は04年に禁止された。13年には同性婚が認められた。いま結婚式の4%は同性婚です。

 村木 国連加盟国の中には同性愛を犯罪とする国がある。ロシアのプーチン大統領は、国内でLGBTQの人たちを攻撃し続けてきた。これらの国が入る国連総会やG20では問題にしっかりと対応できない。昨年のG7サミットでLGBTQの人たちを支援する内容の文書が出た。日本政府も約束したが、法整備も当事者支援も放置された。日本が議長国としてこの問題で議論を主導できるのかと思う。

 イルマン LGBTQに関するフランス政府の行動計画には、体外受精や精子ドナーを使った生殖補助医療もある。男女にも女性どうしのカップルにも補助が出る。フランスの学校では、親の欄について、父と母ではなく、親1、親2と書くことになっている。

 村木 同性婚について日本の世論は6~7割が賛成で、賛成が4割の国会議員との間に隔たりがある。主要政党で差別禁止法に反対しているのは自民党だけだ。LGBTQの権利はグローバル企業にとっては当たり前。経済界もLGBTQへの権利を認めることは経済や社会にとっていいことだということに気づき始めている。

 イルマン 同性婚を認めることは、だれかの権利を奪うことではない。一つのモデルをほかの人に押しつけるのはおかしいことかなと思います。(編集委員・石合力

LGBTQ

 LGBTQ Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)、QueerやQuestioning(クイアやクエスチョニング。自らの性のあり方について、特定の枠に属さない人、わからない人などを表す)の頭文字をとった言葉。性的マイノリティーを表す総称としては、LGBT、LGBTQのほか、自分自身の性自認が無性、中性のXジェンダー、定期的に入れ替わったりする性自認や非性愛者(ノンセクシュアル)らを含めて、LGBT+(プラス)、LGBTQ+なども使われることがある。

 村木真紀さん 1974年茨城県生まれ。認定NPO法人虹色ダイバーシティ理事長(代表)。京都大学総合人間学部卒。サッポロビール、コンサル会社などを経て2013年にNPO法人を設立。性的マイノリティーが働きやすい職場づくりを企業に働きかける。同性のパートナー、7歳の子どもと暮らす。

 ジュール・イルマンさん Jules Irrmann 1974年生まれ。トゥールーズ政治学院、国立東洋言語文化学院日本語科卒。在日フランス大使館参事官、在フィジー公使などを経て2019年から在京都フランス総領事。フランスの少子化対策やLGBTQに関する発言も多い。対談は日本語で行った。

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