「国をもたない最大の民族」とは 歴史から知るクルド人の歩みと今
最近、ニュースで「クルド人」という言葉をよく耳にします。スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題ではクルド人をめぐる問題が影を落とし、トルコ・シリア大地震の被災地にも多くのクルド人が暮らしています。「国を持たない世界最大の民族」とも呼ばれるクルド人とはどんな民族で、どのような歩みをしてきたのか。クルド人の歴史に詳しい上智大学の山口昭彦教授に聞きました。
――クルド人とはどのような人たちなのでしょうか。
厳密に定義するのは難しいのですが、「クルド語を母語にする人々」とするのが適当だと思います。ただ、クルド語は文法的に大きく異なる「方言」からなっており、話す「方言」が違えば、互いの意思の疎通が難しいというのも事実です。
統計がないので正確な人口はわからないのですが、一般には3千万から3500万人ぐらいだとされています。宗教的にはスンナ派(スンニ派)ムスリムがほとんどですが、一部地域ではシーア派ムスリムもいます。さらに、ヤズィーディー(ヤジディ)やアレヴィー(アレビ)などの宗教的少数派に属する人々もいます。
居住しているのはトルコ南東部、イラク北部、シリア北部、イラン北西部にまたがる「クルディスタン」と呼ばれる山岳地帯です。各国のクルド系のゲリラ組織はしばしば「クルディスタン○○党」と名乗りますが、それだけ土地への愛着を持っているわけです。
――クルド人は「国を持たない世界最大の民族」とも呼ばれますが、どうして国を持たないのでしょうか。
私は「国を持たない」という言い方はあまり適切ではないと考えています。現実には、クルド人の多くが自らの属する国の国民として生活しているからです。自分たちがおかれた抑圧的な状況に不満を持つクルド人は少なくないですが、自国に対する帰属意識もそれなりにあります。さらに、イラクのクルド人の場合、自治政府(クルディスタン地域政府)がイラクという国家の枠内で高度な自治を享受しており、ある程度まで「国」を持っていると言えるかもしれません。
クルド地域は複数の国家に「分割」
ただ、これまでクルド人の統一国家が誕生しなかったのも事実です。近代に入るまでクルド人が住む各地域には諸部族を束ねる地方領主が割拠しており、オスマン帝国やイラン系王朝の支配に服していました。彼らの間にクルド人としての同胞意識はありましたが、政治的に統合しようとする動きは見られませんでした。
近代になって中東にもナショナリズム思想が入り込み、クルド人の間にも民族主義的な活動が見られるようになりましたが、方言や宗教、部族といったクルド社会内部の亀裂もあって、統一的な運動にはなりませんでした。第1次世界大戦後、列強によってオスマン帝国が解体され、トルコ、イラク、シリアなどの諸国家が成立すると、クルド地域は複数の国家に「分割」されることになりました。
――その後、それぞれの国で暮らすクルド人たちはどのような歩みをしてきたのでしょうか。トルコには最も多くのクルド人が住んでいるとされます。
1923年に成立したトルコ…
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