ヒナ襲う天敵、対策が急務 ライチョウ「復活作戦」

菅沼遼
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 国の特別天然記念物・ライチョウの「復活作戦」が環境省によって進められている中央アルプスで、ライチョウを襲う天敵が個体数増加への大きな障害となっている。キツネの姿が何度も確認されており、専門家から対策を求める声が上がっている。

 日本のライチョウは北アルプス乗鞍岳(標高3026メートル)など本州中部の高山帯のみに生息。1980年代の調査では約3千羽がいたと推測されているが、現在は約1700羽まで減少しているとみられる。

 環境省のレッドリストでは「絶滅危惧ⅠB類」(近い将来絶滅の危険性が高い)に分類される。環境省は2014年に保護増殖事業を開始。個体数や生息地を増やし、「絶滅危惧Ⅱ類」(絶滅の危険が増大している)に「ダウンリスト」することを目指している。

 今月3日、環境省は専門家や動物園の関係者とオンラインで検討会を開き、22年度の取り組みについて報告した。

 事業のカギとなるのが、半世紀前に絶滅したとされていた中央アルプス・木曽駒ケ岳(2956メートル)周辺での「復活作戦」。18年に北アルプス方面から飛んできたとみられる1羽のメスが見つかったのを機に、再び中央アルプスを生息地とするための取り組みが始まった。

 20年8月に乗鞍岳から19羽を移送し、その後、自然繁殖に成功。21年夏に木曽駒ケ岳から11羽を那須どうぶつ王国(栃木県那須町)と茶臼山動物園長野市)に移し、繁殖させた。

 22年度には、夏に那須で生まれた3家族のヒナ16羽を親鳥の故郷である木曽駒ケ岳にヘリコプターで運んだ。山頂付近にある保護ケージで数日間、周辺の自然環境に慣らしてから、外へ放った。

 だが、放鳥直後にヒナの多くは姿を消した。ヒナ4羽がいた家族は親鳥も含めてみな消息を絶った。9月末に生存が確認できたヒナは6羽。10羽はキツネなどの捕食者によって食べられてしまったとみられる。

 周辺に設置されたカメラは、うろつくキツネの姿を頻繁に捉えていた。保護ケージの近くにはライチョウの羽が散乱した場所が複数あった。そこで捕食されたと推測されるという。

 24年度には再び、動物園からヒナを木曽駒ケ岳に運ぶ計画がある。検討会では専門家から「せっかく運んでも、たちまち食べられてしまう。キツネ対策を考える必要がある」と意見が出た。

 動物園生まれだけでなく、保護ケージ周辺ではヒナの失踪が多い。環境省信越自然環境事務所の小林篤・生息地保護連携専門官は「(木曽駒ケ岳では)ここ2、3年で急速にキツネの目撃が増えている。少数の個体が居ついている印象を受けている。ライチョウが増え、えさがあると学習している可能性もある」と話す。

 環境省は23年度の対策として、捕食者をとらえるわなを設置するエリアを拡大する。種類もかごわなに加え、くくりわななどを新たに導入する。

 かごわなのえさはこれまで冷凍の唐揚げ、さきいか、レーズンなどを使っていた。23年度には、捕食はできない「誘導えさ」として生きたネズミを使う方法も試験的に実施するという。(菅沼遼)

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