敵地を更地化するプーチン型の戦争 ウクライナと同時に救うべきこと

有料記事ウクライナ侵略の深層

聞き手・高島曜介

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年が経ちました。この侵攻は、近代の国際政治史の中でどのように位置づけられるのでしょうか。外交史が専門の細谷雄一・慶応大教授に聞きました。

 ――侵攻から1年になります。外交史家として、どのようにとらえていますか。

 ロシアの一方的な力による現状変更を国際社会が許すのか、それとも阻止するのか。それしだいで、法の支配による国際秩序が崩壊するのか、救済されるのかが決まる。そうした大きな歴史の転換点にあると思っています。

 今年1月、岸田文雄首相は施政方針演説で、近代日本において2回の「歴史の転換点」があったと述べました。1回目は日本が万国公法を学び、国際社会の名誉ある一員として歩み始めた1868年の明治維新。2回目は1945年の終戦です。満州事変を転機に戦争を起こしてアジアの秩序を破壊した日本は第2次世界大戦後、むしろ国際秩序の擁護者になった。

 そして、同じくらいのインパクトを持つこととして、ロシアによるウクライナ侵攻が続く現在を位置づけました。そうした大きな歴史観でとらえることが重要です。

放置すれば「ジャングル」の時代に

 日本による満州事変を国際連盟が放置したことが、その後のムソリーニ政権のイタリアによるエチオピア侵略やナチスによるポーランド侵略をもたらしたということを想起しなければなりません。今回のロシアの侵攻を放置すれば、将来の力による現状変更を非難できなくなり、法の支配に基づく安定と平和の秩序が崩れて、世界は弱肉強食の無法な「ジャングル」の時代に戻ってしまう。

 今、我々が問われているのは、このような歴史的視座です。ロシアの侵攻を食い止め、将来の侵略戦争の種をまかせないことが、国際社会に問われています。

 近年はロシアや中国といった権威主義的な大国と、主に南半球の新興国途上国であるグローバルサウスの国々がより緊密に結びつき、その影響力が拡大してきました。自由民主主義諸国は、今や国際社会でマイノリティーになりつつありますが、これまでそれらの諸国が擁護してきた国際秩序の規範、自由民主主義、法の支配、人権もまた巨大な挑戦を受けています。ロシアによるウクライナ侵攻は、その傾向を加速させているといえます。

行き詰まるロシアへの「寛容」政策

 ――なぜ「巨大な挑戦」にまで至ってしまったのでしょうか。

 冷戦後の国際社会は、楽観的…

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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2023年2月25日21時27分 投稿
    【視点】

    細谷さんが「冷戦終結から30年続けてきたロシアや中国に対する寛容な関与政策が今や行き詰まりを迎え、根幹から問われているのです」と仰っている点は大変重要。これまでの冷戦後の歴史の延長に現在があるのではなく、新しい時代の局面に入ったことを強く認

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