「撮り鉄」と鉄道会社、共存する道を歩むには 取材ノートから

福家司

 【香川】「脚立は許可していないんですが」。JR四国の社員に突然声をかけられた。10月15日、JR高松運転所で開かれた特急車両6種類を横一列に並べた珍しい撮影会を取材したときのことだ。

 JR四国は、安全上の理由から、ホームなど鉄道敷地内での撮影に三脚や脚立の使用を原則として認めていない。私は報道関係者として特別に許可を得ていたが、現場の職員には伝わっていなかったようだ。

 ただ、伝わっていたとしても同じだったかもしれない。この撮影会は、高知から日帰りで最高3万5千円(1人2席利用)を払ったツアー客が参加できる有料撮影会で、参加者の大半は熱心な鉄道ファンだ。特別扱いすると苦情が出かねない、と社員が心配するのも理解できた。

 こんな取材の裏話を年末に思い出したのは、鉄道開業150年の今年、「撮り鉄」と呼ばれる鉄道ファンが線路内や私有地に立ち入るなどのマナー違反が、たびたび話題になったからだ。四国でも、今年で運行開始50年を迎えた特急「しおかぜ」「南風」や急行のリバイバル列車を撮影しようと、関東や中部など遠方のナンバーの車が押し寄せる光景が見られた。

 これらの人々は、鉄道会社の収入にはほとんどつながらない。ホームなどで警戒に当たる職員も必要になるため、ときに鉄道会社にとって迷惑な存在に映ってしまう。鉄道ファンの一人である私は、各地で関係者から苦言を耳打ちされるたびに心を痛めた。「撮り鉄」も鉄道が好きで列車を追いかけているのに、鉄道会社の敵扱いされるのは不幸でしかない。

 共存の道がないわけではない。たとえば、有料撮影会は、鉄道ファンも満足し、鉄道会社にもお金が落ちるウィンウィンな関係を目指した新たな試みだ。高額な価格設定は改善の余地ありと感じるが、参加者は「値打ちはある」と話していた。

 「撮り鉄」はSNSの発達に伴い、爆発的に増えたと実感する。あっという間に数万回が再生される鉄道系ユーチューバーの発信力には、鉄道会社も関心を寄せると聞く。コロナ禍で利用者の減少にあえぐ鉄道会社にとって、「撮り鉄」と不毛な対立に陥ることなく、その発信力を活用することも一案かもしれない。

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 福家記者の記事「JR四国の特急車両6種類が勢ぞろい 高松運転所で有料撮影会」(https://www.asahi.com/articles/ASQBZ7SJ6QBZPTLC019.html)は、朝日新聞デジタルで配信中です。(福家司)…

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