有栖川有栖さんが語る 鉄道とミステリーの切っても切れない関係

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聞き手・岸善樹
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 殺人事件が起きたとき、犯人は遠くを走る寝台特急に乗っていた……君はこの鉄壁のアリバイを崩せるか? 鉄道とミステリーの切っても切れない関係。鉄道ファンのミステリー作家、有栖川有栖さん(63)は「ロマンチックな非日常でありながら硬質」という両者の共通点を挙げる。

 ――鉄道の魅力ってなんでしょう。

 「クジラと鉄道には捨てるところがない。そういわれます。肉や脂、ひげまですべて活用できるクジラのように、鉄道も乗ったり、写真を撮ったり、模型を作ったり、車両を調べたり、あるいは駅弁の包み紙を集めたりと、楽しみ方が非常に幅広い。珍しい愛され方だと思います」

 ――有栖川さんは「何テツ」ですか。

 「JR全線を乗りつぶそうとしているので、乗りテツということになるのでしょう。残りは20路線ほど。そろそろ先が見えてきました。これまで効率よく追い詰めてきたけれど、もう急いで回らなくてもいい。旅情を感じるところを後の方に残しておこうと思っています。最後は、行き止まりの終着駅に降りたいですね」

 ――乗って何を楽しむのですか。

 「子どもの頃から、車窓を眺めるのが好きでした。流れる風景を『読む』のが楽しいんです。島根県を走っていて赤い瓦屋根を見たら『あれが石州瓦か』と気づき、徳島県では『これが吉野川か』と確認するたぐいのことで、知識と実物を照らし合わせて喜んでいます」

 「リニア新幹線ができたら、静岡県内では大井川の水に思いをはせると思います。トンネル工事で大井川の流量減少が懸念されるとして、静岡県が着工に慎重な姿勢を続けていますからね。そうやって知識と照合しながら、風景の意味を読み解くのです。ぼーっと受け身で眺めていてもいいし、運転免許もいらない。鉄道はだれにでも公平で優しいんです」

 ――ミステリーの舞台としても鉄道は選ばれます。なぜなのでしょう。

 「鉄道とミステリーの相性がいいのは、ロマンチックな非日常でありながら硬質という共通のイメージのおかげでしょう。もちろん鉄道は通勤・通学にも使いますが、線路の向こうにはどんな街があるんだろうという旅情を感じさせて、非日常に誘(いざな)ってくれます。一方で、時間厳守のような容赦の無い側面もある。ダイヤに従って秒単位の正確さで走る鉄道は、精緻(せいち)な犯罪計画が容赦なく進む硬質なイメージに重なりやすいのでしょう」

 ――時刻表を使ったアリバイものはおもしろいですね。

 「この分野は日本の専売特許…

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