ソース絡んだ細麺、半熟卵を割って 転勤族も愛した老舗「かまぎん」

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池田拓哉
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 転勤族には土地ごとに思い出の味がある。栃木県那須烏山市の県南那須庁舎に近い焼きそば店「かまぎん」もまた、県職員の胃袋をつかみ続けてきた。

 宇都宮市に住む元県職員の薄井益美さん(61)=県老人クラブ連合会事務局長=は20代のころ、南那須庁舎の同僚たちと焼きそばをかきこんだ。

 「焼きそばにごはん、みそ汁、お漬物がついた『セット』が好きでした。週1回は食べた。あのみそ汁は絶品だったんですよ」

半熟の黄身をつつくとジュワー

 師走の昼どき、店を訪ねた。十数人が座れるテーブル席はほぼ満杯。ソースの香りに満ちていた。「いらっしゃい」。店主の阿久津友子さん(74)が笑顔で迎え入れてくれた。

 薄井さんの思い出にならって、焼きそばセットを注文した。特製ソースが絡んだ細麺はさっぱりとした味わい。乾麺を2度蒸すことで、油っぽさがほどよく抜けるという。半熟の黄身をつつくとジュワーと麺に絡みつく。店の一番人気は豚肉、目玉焼き、イカが入った「スペシャル」とか。

 焼きそばはフォークで食べる。戦後すぐに開業した旧店舗「釜銀」からの伝統だ。「割り箸はもったいない」という創業者の気持ちがこもる。甘みが広がるみそ汁は、阿久津さんが仕込んだ手作りの米みそを溶いた創業者ゆずりの味だ。

 現在の店舗は1978年にオープンした。旧店舗の閉店にともない、阿久津さんと一緒に店で働いていた義母のカネさん(故人)が退職金代わりにのれんを継いだ。

 一家で昔と変わらぬ味を守ってきたが、95年に阿久津さんの夫章さん(享年46)が亡くなった。カネさんも5年前に92歳で他界した。

 長年、店に立ってきた阿久津さんは近年、ひざの痛みがとれない。そんな母を長女貴子さん(44)、次男豊さん(42)が支えている。2人は父の死後、店を継ぐと決めた。

「デートスポットだったのよ」

 店があるJR烏山駅周辺は…

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