第8回「なんで助けてくれないの」母親は笑顔を失った 取り崩した子供貯金

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久永隆一
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 私たちの暮らしを守ってくれるはずの政府の「セーフティーネット(安全網)」は穴だらけ――。コロナ禍で見えてきた現実です。自転車操業のような家計のやり繰りが続く、ひとり親家庭を取材しました。助けが必要でも助けてもらえない。その原因はどこにあるのでしょう。

 5日午後、関東地方のある駅に降り立った。その後、レンタカーで1時間近く。山あいにその家があった。

 50代のシングルマザーが、小学生から高校生までの3人の子どもと暮らしていた。テーブルに座り、取材を始めて30分経ったころ、女性の落ち着かない様子が気になった。

 「どうかしましたか」

 「実は……。きょう、引き落としがちゃんとされているかなって気になって」

 長女の高校の授業料や給食費、後期の模擬試験代など計6万円が引き落とされる日だった。授業料は国による支援の仕組みがある。費用負担はほぼないはずだが、実際は行政での手続きが終わるまでの間、保護者である女性が、数カ月分の授業料を一時的に立て替える必要がある。手続きが終われば差額は戻ってくるものの、タイムラグが家計を一層苦しめる。

 女性はこの前日、金融機関の口座に4万円を足した。今回も、子どものためにコツコツためてきた貯金を取り崩した。昨年4月に36万3483円あったのが、1年半後に7万7484円まで減った。

 「子どもが結婚する時に渡そうと思っていたんですけどね」

幾重ものセーフティーネットがことごとく受けられず

 電気代や保険料、様々な引き落としが毎月計7回ある。

 「ちゃんと払えたかな」

 お金への不安がグルグル頭のなかを回る。人前で笑顔をつくっていても、「この1~2年、心の底から笑ったことはないんです」。

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 生活苦のきっかけは昨年1月…

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この記事を書いた人
久永隆一
さいたま総局次長
専門・関心分野
社会保障、教育、こども若者、貧困、人口減少

連載その先に見えたもの(全13回)

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