苦境越えて線路よ続け 安中の鉄道文化むら、知恵絞る

野口拓朗
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 日本の近代化の「生き証人」をそろえた碓氷峠鉄道文化むら(群馬県安中市松井田町横川)。コロナ禍で来場者が減少し、経営環境が悪化した。職員たちは「蒸気機関車など貴重な列車を後世に伝えていきたい」と集客に知恵を絞っている。

 1997年の長野新幹線(現北陸新幹線)開業に伴い、群馬と長野を結んでいたJR信越線の横川―軽井沢間11・2キロは廃止された。旧松井田町は99年、先人たちが艱難(かんなん)辛苦を克服して急峻(きゅうしゅん)な峠越えの機関車やトンネル、橋などを整備してきた歴史を伝え続け、町活性化の起爆剤にしようと横川駅近くに約21億円を投じ、全国有数の鉄道車両展示施設の文化むらを開設した。

 横川駅で活躍したアプト式電気機関車や、全国各地から集めた屋内展示6両、屋外展示38両の計44両。塩害腐食を防ぐためにステンレス製の車体で関門トンネルで活躍した電気機関車、煙突後部に雪害対策が施された蒸気機関車など勇士ぞろいだ。

 開園初年度は物珍しさから約30万人の入園者でにぎわったが、徐々に減り続け、2019年度は約12万人に。20年度はコロナ禍が追い打ちをかけた。稼ぎ時の4月中旬から5月まで休園。夏休みも客足は戻らず、激減の見込みだった。

 そこへ救世主が現れた。超人気アニメの「鬼滅の刃(やいば)」。JR高崎支社が高崎―横川間を往復する「SLぐんま」の機関車のヘッドマークに10月から3カ月あしらい、横川駅にファンが押し寄せた。3種のマークのうち2種が文化むらに展示され、乗客やファンが入園した。この3カ月の入園者は約6万8千人。前年同期比の2・8倍に達した。3カ月で半年分を稼いだ勘定で、鬼滅さまさまだ。この効果でなんとか20年度は前年並みとなる見通しだ。

 収入全体を見ると、開園初年度は約2億3千万円だったが、19年度は約1億3千万円に半減。20年度もコロナ禍で約4千万円の赤字の見込みという。当初2億円あった財団の基金は半減した。

 収入の柱は入園料と種々の乗り物料金。中でも電気機関車の運転体験は鉄道ファンに根強い人気がある。旧線の片道400メートルを往復し、1回5千円~1万円。年間の売り上げは約2千万円で、入園料収入3700万円の約半分。ミニSL、トロッコ列車などの売り上げは約2600万円だ。

 鉄道文化むらでは収入増を目指し、種々の企画を練っている。その一つが運転シミュレーター。運転席の前面に映像が13分流れ、実際に運転している感覚になる。1月、従来の横川―熊野平間から軽井沢まで延伸した。今は上り坂だが、軽井沢から下る復路の映像も開発中だ。

 5月には初の夜間イベントを計画している。トロッコ列車を夜行運転し、旧丸山変電所や展示車両を照らす。夏休みには展示場の空いた場所で野営キャンプをしてもらう。

 園内を周遊するシンボルで、日本に数少ない英国製の蒸気機関車「SLあぷとくん」の復活も鍵を握る。2年前に老朽化でボイラー付近が故障、修復費1300万円を目指してクラウドファンディング中だ。

 コロナ禍で苦戦する中、久しぶりの朗報があった。安中市観光機構が主催し、横川―軽井沢の線路を歩く「廃線ウォーク」が第25回ふるさとイベント大賞(地域活性化センター主催)の優秀賞に選ばれた。財団の中島吉久理事長は「うれしいニュースでした。みんなで連携して、貴重な鉄道遺産を保存、活用して、多くの人に来てもらえるよう知恵を出しあって地域の活性化と発展にがんばりたい」と話している。(野口拓朗)

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