自分の名前とは思えなかった荒川太郎 選んだ「妻の姓」

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玉置太郎
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 日本では、結婚した夫婦は同じ名字にしなければならない。男女どちらの名字でも良いが、女性の名字を選ぶ夫婦はわずか4%だ。「結婚したら女性が名字を変えるのが当たり前?」。暮らしの疑問や悩みを募って記事にする「#ニュース4U」取材班の記者が、夫婦の姓について考えた。

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初めて書いた「自分の名前」

 記者(37)は昨年3月に結婚する際、「玉置」から妻の名字の「荒川」に改姓した。

 手続きは簡単。婚姻届にある「婚姻後の夫婦の氏」を選ぶ欄で、「妻の氏」にチェックを入れ、役所に提出しただけだ。

 婚姻届を点検した男性職員には「奥さんの名字で本当によろしいですね。やっぱり変えたいというのは無理ですよ」と念を押された。新しい住民票を請求する用紙に、初めて「荒川太郎」と書いた手は、少し震えた。とても自分の名前だとは思えなかった。

 男性の名字を選ぶのが「当たり前」という雰囲気に、違和感があった。初めに相談した時、妻は「そこは普通でいいでしょ」と反対した。友人の50代女性からは「周りの人は、奥さんが押し通してるって思うよ。かわいそうやろ」と諭された。

 改姓した後も、普段の生活では旧姓の玉置を使っている。ただ、パスポートや運転免許証、健康保険証、銀行口座は、一つひとつ窓口へ行って名義を変えた。身分証の提示が必要になる会員証作成や病院予約、レンタカー利用は妻の姓を使わねばならず、よく混乱する。間違えた時は、「結婚で名字を変えまして」と窓口で説明する。

 「名字は女性が変えるもの」という思い込みにも、よく出会う。会社の上司に改姓を報告すると、「養子縁組か」と勘違いされた。妻は知人に結婚の報告をする度に「新しい名字は?」と尋ねられている。

 夫婦別姓が制度で認められていれば、こうした煩わしさはすべてなくなる。今も妻には「法改正されれば、旧姓に戻すよ」と話をしている。

違和感とともに生きていく

 同じように、旧姓を使い続ける人たちは、どう考えているのだろうか。

 厚生労働省の2015年の調査で、妻の名字を選んだ夫婦は4・0%。1985年1・5%、95年2・6%、05年3・7%と、微増はしている。

写真・図版

 東京でメーカーの営業職に就く佐藤貴行さん(32)は2年前に結婚した際、妻の名字に変えた。妻は3人姉妹の2番目で、姉がすでに結婚で改姓。「家の名前を残したい」と求められた。

 長男である佐藤さんにも「じゃあ自分の家はどうなるのか」と葛藤があった。両親からも「家を継ぐことを期待していたのに」と反対された。話し合いの末、自身が旧姓を使い続けることにして、改姓を受け入れた。

 友人らからは「婿養子?」「妻を説得できなかったの?」と聞かれ、「その度に、身の上話を迫られるのが苦痛です」。仕事では旧姓(佐藤)を使うが、海外出張の際、ホテルで予約名(旧姓)とパスポート名の食い違いを不審がられ、日本の同姓制度の説明に苦労した。

 長男(1)は妻の名字になった。保育園に付き添う時は、自身も妻の名字で呼ばれる。「生活の折々に、違和感を感じて生きていかないといけない。結構しんどいですよ」

夫婦別姓選べたなら

 佐藤さんは昨年、ネットで見つけた「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の活動に加わった。別姓の制度化を求める意見書を国に出すよう、各地方議会に陳情するグループだ。

 事務局長の井田奈穂さん(4…

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この記事を書いた人
玉置太郎
ネットワーク報道本部|大阪駐在
専門・関心分野
移民・外国人