(9月13日付朝刊に掲載した「ことばの広場」を再録しました)

 何げなく使われることばに、対照的な意味が共にあることを知って興味をそそられました。

 「今日は、ほっこりした」。福井県南部の病院に尋ねると、スタッフの一人が患者から聞いたと答えます。近ごろ「ほっこり」という表現を見聞きします。「現代用語の基礎知識」は2010~13年版で取り上げ、「落ち着く」「温かい気持ちになる」と解説。柔らかな語感から癒やし系の意味を想像する人も多いのではないでしょうか。

 その病院スタッフも同じように思ったそうです。苦痛や気分が「和らいだ」と受け取り、「よかったですね」と声をかけたところ、患者は首をかしげるばかりだった、と言います。

 原因は「ほっこり」の意味にありました。「都道府県別全国方言辞典」は、この地域のことばで「疲れる」を表すと説明。患者は疲れていたので「ほっこりした」と言ったようです。

 地元では「体力のいる農作業や山仕事を終えた時」「会議が長引いても何も決まらなかった時」などに「ああ、ほっこりした」と口にするそうです。