(2月27日付朝刊に掲載した「ことばの広場」を再録しました)

 日本人になじみ深い麺類の「蕎麦」。なぜ「そば」と言うのでしょう。

 「そば」には「物のかど。りょう。稜角」(日本国語大辞典)という意味があります。「稜(そば)」は「物のとがって突き出た部分」で2面が交わった角(かど)の外側が元の意味。角の内側で面に囲まれた区域が「隅(すみ)」です。

 山稜、稜線といえば、山の尾根であり峰の帯状の連なり。あの形状が「りょう」であり「そば」なのです。山が「聳(そび)える」も「稜(そば)立つ」「峙(そばだ)つ」も角張った形でそそり立つことです。

 蕎麦の材料になる、植物のソバはタデ科の雑穀。実には角張った三つの突起があり、断面は三角になります。正式には「ソバムギ」と言います。

 10世紀の漢和辞書「和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」は「曽波牟岐(そばむぎ)」の字を当てて、日本語としての読み方を示しています。「そば=稜角」のある麦の意味で、後の「むぎ」を略した「そば」が定着したようです。漢字の蕎麦は「蕎」だけで「そば」の意味があります。