(6月8日付朝刊に掲載した「ことばの広場」を再録しました)

 スポーツ選手や芸能人が「みなさんに希望を与えられるよう頑張りたい」などと言うのは、上から見下ろしているようで変では?という疑問を、複数の読者から頂きました。

 「与える」を使ったこのような表現を、東日本大震災以降、よく耳にするとの指摘です。最近では日本代表選手が熊本地震の被災地を思い「自分の柔道で地元に元気を与えたい」と語ったと本紙で報じられました。

 「与える」――基本的には、自分の所有物を他人に渡し、その人の物とすることです。その上で例えば「日本国語大辞典」は「現在では、上の者から下の者へ授ける場合にいう。やる。さずける」、「大辞泉」は「恩恵的な意味で目下の者に授ける場合に多く用いる」といった説明を加えています。確かに「与える」人の方が偉そうです。

 一方で「大辞泉」は「相手に、ある気持ち・感じなどをもたせる」の意味も載せ、その用例として「感銘を与える」「いい印象を与える」を挙げます。与えるものが物品や恩恵ではない、希望や元気などの場合、こちらが当てはまるようです。