午後5時にドアを開ける小学生 外国ルーツの子が巣立つ小さな部屋

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真鍋弘樹
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34平米の1DKに集う子どもたち

 平日の午後5時過ぎ、横じまのシャツを着た小学校3年生の男の子が、恥ずかしそうにそっとドアを開けた。

 席につくと、教科書を開いて音読を始めた。「夕日が背中を押してくる……。って、どんな意味?」。母がミャンマー、父が韓国出身だという。

 ほどなくネパール人の母を持つ中学1年の男子が姿を見せた。それから、タイから来た中3女子。韓国、タイの高1男子2人組。ルーツも年齢も違う子たちで34平方メートルの1DKが埋まった。

 外国人住民の多い東京都新宿区で、その比率が2割を超す大久保地区に部屋はある。「居場所みんなのおうち」。同区に住む小林普子(ひろこ)さん(75)が代表理事を務めるNPOが運営する。20年前から名前やかたち、場所を変えながら、外国ルーツの子たちに無料学習指導の場を続けてきた。

多民社会

 教室に数人、外国につながりのある子たちがいる。これからの日本ではそんな光景が当たり前になる見通しです。少子化により現役世代が減り続ける国で、教育や就職のサポートさえ整えば、未来への道が開き、日本社会に溶け込んでいく子どもたちがいます。外国ルーツの子たちをどう育み、社会に送り出すか。現在地を伝えます。

 現在は、同区の「協働事業提案制度」を利用し、区の事業をボランティアで運営する方式で週3回、小中学生向けに日本語と各教科の学習教室を区営施設で開いている。日曜日を除いた残りの3日、NPO独自に「おうち」で子どもたちを教える。

 現役の日本語教師や元海外駐在員など20~70代のボランティアが、小学校の国語から日本語能力試験(JLPT)対策、高校の数学まで、何でも個別に指導する。

一升炊きの炊飯器がすぐ空に

 近隣には児童の半数が外国ルーツの子という小学校もある。家庭の経済状況には格差があり、この部屋は「塾に行けない子たち」を集めている。

 多くの子は日本語会話に不自由しないが、それでも大きなハンディを抱える。習い事に通ったことがなく、家には日本語の本がない。博物館や美術館などに行く機会はなく、日本国内の旅行をしたこともない。そんな子たちがほとんどだ。

 幾何の勉強の合間、高1の男子2人は、特大の器に盛られたカツ丼を10分もかけずに平らげた。一升炊きの炊飯器がすぐに空になる。「男子は食事で釣ってるの」。コンロ一つの小さな台所に立つ小林さんは冗談ともつかない口調で話す。

 「僕にとってここはセーフゾ…

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