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 学生の頃、染め付けの小皿を買って以来、古い器が好きになった。といっても、買えるのは財布が許すガラクタばかり。古い器集めは卒業しようと思うが、骨董(こっとう)店の前は素通りできない。

 今、気になってしかたないものがある。築地市場の地中に眠っているかもしれない器である。

 築地は江戸時代の埋め立て地で、市場のある場所は有力大名の下屋敷があった。銀鱗文庫が入っている建物は、松平定信の「浴恩園」があった場所だ。寛政の改革(1787~93年)後、政治の表舞台をしりぞいた定信は、ここで庭つくりを楽しんだのだった。