初めて仲卸のならぶ通路を歩いた日、どこまでも続く看板に目を奪われた。間口2メートルに満たない店でも、看板はどでかく、漢字2、3文字の屋号が筆太に記してある。時代劇の映画のセットに迷いこんだ気がした。

 そんな風景も当たり前になってきたころ、屋号が語りかけるものが見えてきた。

 わが銀鱗文庫の会長の店は「神奈辰」である。ご先祖さまの言い伝えによると、江戸の終わりに一族郎党、神奈川県小安から桁船で江戸深川に移住。日本橋魚河岸で働き始めた。