第2回隣から「馬鹿」「死ね」聞こえても無視して…トゥレット症と生きる私

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編集委員・岡崎明子

 大川原里美さん(37)はいつも、あらがいがたい衝動と闘っている。

 料理をしていると、ついガスの火にパッと指を入れたくなる。熱を入れたヘアアイロンの間に、指をはさみたくなる。

 「熱いことはわかっています。でもリスクがあるからこそ、やりたくなってしまうんです」

 高校生のときには、折りたたみ式携帯を真ん中からバキッと割ってしまった。お皿に盛られた納豆をひっくり返したくなり、実行に移してしまったこともある。

 いずれも、発達障害の一つで、本人の意思とは関係なく声や体の動きが出てしまう「トゥレット症」の症状の一つだ。症状が重くなったのは、中学1年生のときだった。

 突然、「あっ」「うっ」といった声だけでなく、「馬鹿」「死ね」といった言葉が出てしまう。首を後ろに何度もふったり、手で壁やドアをバンバンたたいたりしてしまう。

 当時、姉が高校受験を控えていた。アコーディオンカーテンで隔てただけの子ども部屋から聞こえてくる声や音に、姉はがまんできず「集中できない!」と何度も怒った。姉妹の仲は険悪になった。

 実は小学2年生のころから、足がカクンとなったり、声をあげたりする症状が始まっていた。原因がわからないため、親からも「いい加減にしなさい」と怒られてばかりだった。

 さすがにおかしいと思い病院に行くと、トゥレット症と診断された。

 診断されたものの、特効薬はない。意図しない声や動きを、やめたいのにやめられず「消えたい」「死なせてください」と天井を見上げながら、涙をこぼした。

私立中を退学し、特別支援学校に

 病院で抗不安薬を処方されたが、薬が強すぎて日中、起きられなくなった。通っていた私立中の勉強についていけなくなり、特別支援学校に転校した。

 転校しても常に眠く、通学しても机の上に突っ伏したり、保健室のベッドで寝たりして過ごした。友達もできず、孤独だった。

 死にたい。死ねば楽だろうな……。

 行きたい高校があり、3回ある試験、すべてを受けたが不合格だった。学力のせいで落とされたのか、チックのせいで落とされたのか、わからなかった。通信制の高校に通うことになった。

 待っていたのは、思いもよらない世界だった。

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 「何も隠す必要はないんだ…

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この記事を書いた人
岡崎明子
編集委員|イチ推しストーリー編集長
専門・関心分野
医療、生きづらさ、ジェンダー、働き方
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    島沢優子
    (ジャーナリスト・チームコンサルタント)
    2024年7月22日13時26分 投稿
    【視点】

    「待ってあげて。あの子は何か持ってる子だから」 車のバックシートにいた長男が、運転する夫に声をかけました。夫は、目の前でゆっくり横断歩道を渡る女の子にややじれていました。ハンドルを握って「おいおい、早く渡れよ」とつぶやいた夫に向けて発したの

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