(社説)森林環境税 使途と効果が問われる

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 「森林環境税」の徴収が6月から順次始まる。温暖化防止や国土保全に役立つ森林整備の財源にするとの触れ込みだが、有効活用されるのか、かねて疑念が出ている。必要な事業や地域で税収が適切に使われるよう、政府と各自治体は制度の改善に努めるべきだ。

 新税は、個人住民税に年1千円を上乗せして徴収し、年約600億円が市町村と都道府県に配分される。使途は、間伐などの森林整備と人材確保、公共施設での木材利用・普及啓発と定められている。

 森林は木材供給に加え、災害防止や水源の維持、二酸化炭素の吸収など、多様な機能を持つ。一方、林業の担い手は減り続け、低収益を背景に伐採後の植林は3~4割にとどまる。放置や無断伐採も深刻だ。こうした問題に対処するためにも、保全の営みを財源面でも支える必要性は理解できる。

 だが、新たな税収を実際の整備に効果的につなげられるかは、依然不透明だ。

 この制度は、別の財源による配分が19年度から先行して始まっていたが、使い残しの多さが指摘されてきた。22年度でも1割の市町村が、配分の全額をそのまま基金としてため込んでいる。

 都市部は森林が少なく事業の必要性が乏しい、小さな市町村は森林行政の体制が手薄で執行が十分できない、といった事情が目につく。他方、使途が限られた目的税は無駄づかいの温床になりやすく、安易に使う事例がないか、疑念もぬぐえない。

 主な原因は配分の基準にある。森林面積、林業就業者数、人口をもとに各自治体に配る額が決まるが、これまで人口に応じた分が全体の3割を占めていた。金額上位の顔ぶれには、トップの横浜市をはじめ、大都市が目立つ。

 今春の法改正で、人口分を25%に下げ、山間部への配分を少し手厚くすることになった。方向性は妥当だが、これで十分なのか。今後も使途や効果を検証し、必要ならば制度の抜本的な見直しも考えるべきだろう。

 新税については、ほかにも数々の疑問が出ている。多くの国民に定額を課す方式は政策目的と整合的なのか。東日本大震災の復興増税の一部を切り替える手法は「とりやすいところからとる」考え方ではないのか。政府は納税者に答える責任がある。

 問題含みの出発になったこの仕組みを、持続的な森林管理の実現に向けて長期の視点で取り組むきっかけにできるのか。今後も制度の存在意義が問われ続ける。

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    パトリック・ハーラン
    (お笑い芸人・タレント)
    2024年5月29日23時55分 投稿
    【視点】

    みなさん、騙されないでください。森林環境税の導入がなければ、森林や環境を守る財源がないわけではない。実は2019年から既に同じ目的で自治体に税金が給付されている。また、森林環境税の税収が森林や環境にかけられる保証もない。各自治体に配ったあ

    …続きを読む