(社説)施政方針演説 信頼回復の覚悟見えぬ

社説

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 裏金の実態解明にも、政治資金透明化の具体策にも触れずじまいでは、政治の信頼回復への覚悟も熱意も伝わってこない。素通りした重要課題も少なくない。これでは、政策の遂行に不可欠な国民の理解や支持は得られまい。

 岸田首相が施政方針演説を行った。昨年末、組織的な裏金づくりをしていた自民党安倍派に属する松野博一官房長官ら主要閣僚と党幹部を一斉に交代させ、新たな布陣で臨む初めての国会である。

 この間の経緯を丁寧に説明し、責任の果たし方や具体的な改革案を示すのが、本来であろう。だが、首相は国民の疑念を招いたことを「おわび」したものの、党の政治刷新本部が急ごしらえした「中間とりまとめ」の概要をなぞるだけで、政治資金規正法の改正についても、今後の与野党協議に委ねるという姿勢から一歩も出なかった。

 演説に先立って開かれた予算委員会での「政治とカネ」の集中審議では、遅ればせながら、党として関係議員から聞き取り調査を行う考えは示した。ただ、連座制の導入には「丁寧な議論が必要」だとして踏み込まず、政策活動費の使途公開には終始、否定的だった。野党の提案にも謙虚に耳を傾け、改革の実をあげられるかが問われる。

 演説の冒頭と結びは、能登半島地震への対応に割いた。被災地は「だんだんと落ち着きを取り戻している」と述べたが、多くの地域で断水が続くなど、厳しい状況に変わりはない。「復旧・復興支援本部」の新設はいいが、被災者の不安にこたえる具体的な青写真を示してほしい。

 沖縄の基地負担の軽減では「普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進める」としたが、これは昨年の演説と一言一句同じである。自治体の権限を奪う「代執行」を経て、今月埋め立て工事を強行したことなどなかったかのようだ。本気で沖縄に向き合う気があるとは思えない。

 安倍元首相の銃撃事件後、政治の信頼にかかわる問題だとして、首相演説で毎回取り上げてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への言及は消えた。教団の解散命令を東京地裁に請求したことで終わりだとでもいうのか。被害者の救済は道半ばで、教団と自民党との関係の解明は全く進んでいないことを忘れるわけにはいかない。

 「防衛装備移転三原則」の改定にも触れなかった。殺傷能力のある武器輸出へ道を開く重い政策変更を説明しないようでは、国会軽視のそしりは免れない。

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