(社説)防衛費の財源 非現実的な想定やめよ

社説

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 自民党の特命委員会が防衛費増額の財源を精査する議論を始めた。増税以外の歳出改革などの具体策を検討するという。無駄の削減を図るのは当然だが、それで確保できる財源に過大な期待を寄せるのは禁物だ。あてが外れて借金を重ねる事態を招いてはならない。

 政府は昨年末、27年度の防衛予算を今よりも4兆円も増額する方針を決めた。うち3兆円を増税以外で確保するという。

 だが、同時に打ち出された歳出改革には実態が無く、特別会計の余剰資金など「1回限り」しか使えない財源ばかりが目立つ。このままでは絵に描いた餅になる可能性が高い。

 「今を生きる世代の責任を果たす」(岸田首相)というのなら、より実効性ある手段を示すべきだ。自民党には地に足をつけた議論を期待したい。

 その点で懸念されるのは、党内最大派閥の安倍派を中心に、歳出改革などで政府の想定以上の財源をひねりだし、増税の幅を圧縮するよう求める声が根強いことだ。

 国民に負担を求める前に、歳出の効率化に最大限尽力すべきなのは言うまでもない。ただ、民主党政権がかつて力をいれた事業仕分けでも、削減額は1兆円程度だった。いま政府が計画する3兆円でも、増税以外でまかなうのは難しい。非現実的な想定をもとに、安定財源の確保を怠るようでは困る。

 実際、19日に開かれた特命委の初会合では、国債を60年で償還するルールを廃止し、毎年予算に計上している償還費を防衛費に充当する案が取り沙汰された。国債の満期で必要になる償還費を防衛費に流用すれば、その分を別途借金で集めなければならない。新規の財源は何も生まれないのは明らかだ。

 こうした無意味な議論に時間や労力を浪費するようでは、出てくる結論にも期待ができない。優先順位が低い施策の見直しといった地道だが確実な手段で、実際にどの程度の額が捻出できるのか。まずその精査に全力を挙げるべきだろう。

 一時的な景気や感染症への対策と違い、防衛費は恒常的に支出する経費である。借金以外の安定財源が不可欠だ。今のようにその捻出に苦慮する事態は、そもそも前提に置いた防衛力強化が国力の身の丈を超えていることを示している。

 日本が抱える重要課題は、子育てや脱炭素など防衛以外にも山積みだ。限られた資金や人材などの資源を防衛偏重で配分することは合理的ではない。特命委には、安定財源の精査だけでなく、「GDP比2%」の規模ありきで決めた防衛力強化を再考することが求められる。

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