(社説)感染者の急増 社会で危機感の共有を
新型コロナの感染者が全国で急拡大している。東京都では2日連続で過去最多を更新し、ついに3千人を超えた。周辺3県でも政府に緊急事態宣言の発出を求める動きがある。
高齢者の感染はおおむね抑えられているものの、入院が必要な患者や重症者の中心が働き盛りの世代に移り、ベッドは確実に埋まりつつある。世界各地で勢力を広げるデルタ株への置き換わりが、国内でも進む。
人の動きが活発になる夏休み期間と重なり、感染症の専門家や医療現場からはこれまで以上の危機感が示されている。
ところがその危機感が、国、自治体、そして国民の間で共有されているとは言い難い。
たとえば菅首相である。不要不急の外出を避けるよう呼びかける一方で、おととい東京五輪への影響を問われると「人流は減少している。心配ない」と答えた。しかし減少幅は過去の宣言時に比べて小さく、場所によってはむしろ増加している。
都合のいい事実だけを切り取った発言は不信を深めるだけだ。これまでも楽観論を振りまいては抑え込みに失敗してきた首相だけに看過できない。
東京都の福祉保健局長は、医療提供体制に問題はないとの認識を示し、「いたずらに不安をあおるようなことはしていただきたくない」と述べた。
だが都は26日付で、コロナ病床確保のため、救急医療の縮小や手術の延期などの検討を医療機関に要請している。なぜ黒を白と言いくるめるような話をするのか。人々が抱く不安、医療従事者の切迫感とのずれは明らかだ。小池百合子都知事も局長と同じ見解なのか。
政府・都は外出自粛や移動の抑制を求めながら、五輪という巨大イベントを強行し、祝祭気分を醸し出してきた。この矛盾がさまざまな場面で噴出。繰り返される宣言への慣れや、酒類の提供停止をめぐる失政への反発も重なって、行政の要請に協力しようという意識は極めて希薄になっている。
自分たちの振る舞いによって、自分たちの言葉が市民に届かない。まずその自覚を持ち、これまでの判断ミスを反省したうえで、状況の改善に当たらねばならない。五輪についても、首相が国会で表明した「国民の命と健康を守っていくのが開催の前提条件」という約束にたがわぬ対応をとる必要がある。
高齢者の様子を見ても、ワクチンが行き渡れば一定の効果が期待できる。それまで死者や重症者を最小限にとどめ、通常医療に支障をきたすことなくこの難局を乗り切る。そのために何より求められるのは、社会全体で認識の共有を図ることだ。