(社説)熱海の土石流 危険地域の再点検を

社説

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 大規模な土石流が起きた静岡県熱海市の現場では、多くの人の安否がはっきりしないまま捜索活動が続く。梅雨前線による雨が断続的に降り、二次災害の心配もある。行政は安全を最優先に、救助と被災者の支援に力を尽くしてもらいたい。

 何より安否不明者の正確な把握が急がれる。被災者の特定は、捜索範囲の決定や態勢づくりにも関わる重要な作業だ。

 今回の災害は、土石流から身を守ることの難しさを改めて示した。崩落した土砂は河道を海岸まで約2キロにわたって猛スピードで流れ落ち、少なくとも約130棟が損害を受けた。

 現場の逢初(あいぞめ)川沿いは土砂災害警戒区域に指定されていた。土石流の前兆現象には、山鳴り、がけからの湧水(ゆうすい)、草や土のにおいの変化などがある。だが、よほど注意深く監視していないと異変に気づくのは難しい。起点が住まいから遠く離れたところであればなおさらだ。

 平野部が少ない日本では、山地を切り開く営みが繰り返され、急な斜面や谷あいにも住宅が立つ。国土交通省によると、3月時点で全国で66万カ所が、今回の現場と同じ警戒区域となっている。こうした場所を中心に、昨年は土石流や地滑りなどが約1300件発生し、5年連続で1千件を超えた。

 雨の多い季節は続く。自治体は国と連携して足元の安全を再点検し、万一に備えてほしい。

 熱海市の現場の上流には「開発行為」による盛り土があり、これが長さ・幅約100メートルにわたって崩落した。県は「被害を甚大化したものと推定される」と発表した。どんな手続きに基づいていかなる工事がされたのか、関係者からの聞き取りを含めて詳しく調査し、結果を広く社会に説明する必要がある。

 事故発生当時、市は危険地域の住民全てに避難を求める「避難指示」(警戒レベル4)を出していなかった。前日に気象台と県が4相当の土砂災害警戒情報を発表したが、雨のピークは越えると見て「高齢者等避難」(同3)にとどめていた。

 たしかに同市網代の観測地点では、今月1日以降、1時間雨量が「激しい雨」とされる30ミリを超えた時間帯はなかった。一方で積算雨量は、直前の48時間で平年の7月の1カ月分を上回っていた。関係機関とともに、情報共有のあり方や判断の過程を検証し、将来につながる教訓を導きだしてもらいたい。

 豪雨の被災地は、その地形などからかねて何らかの災害リスクを指摘されてきたところだ。自分の住む地域はどんな特性や歴史をもつか。一人一人がふだんから確かめておくことが、被害を抑えることにつながる。

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