(社説)イラン核合意 現政権で再生の妥結を

社説

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 紛争の絶えない中東の国々が核開発の競争に陥るのは、悪夢だ。その危機を防ぐには、地域大国イランの核合意を是が非でも再生させねばならない。

 行方を決めるのは、イランと米国の交渉である。トランプ前政権による合意からの離脱を誤りだったと考えるバイデン政権は、4月に協議を始めたが、いまも決着に至っていない。

 この週末にはイランで大統領選挙があり、話し合いの実質的な残り時間は少なくなった。8月初めにイランの政権が保守強硬派に代わるからだ。

 いまの穏健派のロハニ政権が続く、あとひと月半が貴重な期間となる。両国は、核合意を再起動させる理性的な政治決断を急ぐべきだ。

 次期大統領に当選したライシ師はイスラム法学者で、検事総長など司法畑を歩んだ。政教一致の体制を守る役目を担い、過去に政治犯の大量処刑にも関与したと指摘されている。

 バイデン政権は人権と民主主義の重視を掲げており、簡単には妥協できないだろう。イランのミサイル開発や中東での覇権拡大を懸念する米議会からの圧力も強まりそうだ。

 国内的な事情はライシ師も同じだ。保守強硬派が多数を占めるイラン国会は、核開発の拡大を求める法律を可決した。次期政権が支持基盤の要求をないがしろにすることは難しい。

 保守強硬派は反米を掲げてきた。ただ、ライシ師の外交は未知数で、選挙中には核合意を「支持する」と述べた。同師を自らの後継とみているハメネイ最高指導者も、米と間接的に交渉することは認めている。

 そうした点から、必ずしも次期政権で対米関係が滞るとも限らない。だとしても、交渉が政権交代後までもつれれば協議メンバーは入れ替わり、長期化する懸念が拭えない。

 この核合意は、イランと米国の双方に大きな利益をもたらすことを思い起こすべきだ。

 イランは核開発を大幅に制限する代わりに、制裁が緩められる。原油の輸出に妨げがなくなり、経済の改善が見込める。逆に、対立が続けば、核施設へのサイバー攻撃など妨害行為の可能性が高まりかねない。

 バイデン政権も最大の脅威とみる中国への対策に注力するうえで、中東の安定は不可欠だ。トランプ前政権下で揺れ続けた欧州などとの関係を修復するうえでも、イラン政策を是正したいところだろう。

 核合意はイランと米国に加え、英仏独中ロの5カ国も署名国である。交渉を仲介する欧州連合とともに、この重要な国際合意を再び軌道に乗せられるよう働きかけを加速してほしい。

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