(社説)変動鉄道運賃 導入の検討を前向きに

社説

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 時間帯や曜日によって鉄道運賃が変わるようになるかもしれない。需給に応じた価格を設定する「ダイナミックプライシング」の導入を、国土交通省が本格的に検討する。実現すれば、混雑時の運賃は高く、閑散時は安くでき、需要の分散が期待できる。前向きに考えてほしい。

 鉄道大手では、コロナ禍での「3密」対策として、混雑時を避けて通勤すればポイントを与える例もあるが、日本では、通勤にかかる交通費は会社が負担するのが一般的だ。利用者へのポイント付与ではなく、運賃自体を変えなければ、通勤の時間帯などを見直すよう促す効果は限られる。

 変動料金制は、航空機や高速バスでは普及したが、通勤や通学の足となる鉄道は「社会の理解が得られない」と導入が見送られてきた。しかし採用されれば、鉄道会社は混雑時に多く配置している車両や人員を減らしてコストを削減でき、混雑が緩和されれば利用者にも朗報だ。

 海外では、米ワシントンの地下鉄で、混雑時と閑散時とで最大1・5倍程度の価格差をつけている事例もある。

 留意する必要があるのは、業務の特性上、どうしても社員が特定の時間に出勤しなければならない企業や、学生への配慮である。受け入れられる程度の負担に抑えるには、変動幅を限定的にせざるを得ない。

 値段の高低で需要を調整する価格メカニズムは、混雑解消にとって、あくまで一つの手段とみなすべきだろう。政府や自治体は、テレワークに必要な機器への補助や東京一極集中の是正など、ほかの施策と合わせて取り組むことが求められる。

 一方、オンラインによる勤務や授業が定着すれば、鉄道需要は元には戻らないだろう。とはいえ、コロナ禍で苦しい鉄道会社の経営改善のために変動運賃制を導入しようというのでは、国民の理解は得られまい。混雑時の値上げは、閑散時の値下げとセットで行う必要がある。

 すでに変動制の検討を表明しているJR東日本、西日本の運賃は、消費増税分を除けば国鉄分割民営化前の1986年から据え置かれている。当時に比べれば人員削減が進み、債務の金利負担も軽くなった。全体の増収を図るための値上げの是非は、コロナの影響だけでなく、過去の費用減少の経緯も含めて多角的に検討するべきだ。

 鉄道運賃は現在、会社が申請しなければ改定されない。この制度は、右肩上がりで物価が上昇した時代の産物だ。経済環境の変化を踏まえて運賃を適切に見直せる制度を考えなければならない。変動運賃制にとどまらない骨太な議論を期待したい。

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