自民、公明両党などが3年前に国会に提出した、憲法改正の国民投票法改正案がきのう、野党の立憲民主、国民民主両党の賛同も得て、衆院憲法審査会で修正可決された。今国会で成立する見通しだ。

 これまで審議が進まなかった背景には、「改憲ありき」で突き進んだ安倍前首相への根深い不信がある。今回の与野党の歩み寄りを、丁寧な議論と幅広い合意形成が何より求められる、憲法論議の原点に立ち返る機会とすべきだ。

 改正案はもともと、商業施設や駅への共通投票所の設置など、07年の国民投票法成立以降に国政選挙に導入された諸措置を、国民投票にも反映させようというものだ。

 もとより異論はないはずだが、安倍政権では「数の力」を頼んだ強引な国会運営が際だった。国民投票法の改正が、改憲発議の環境整備につながるのではないかと、野党が警戒したのも無理はあるまい。

 一方で、改憲案への賛否を呼びかける運動の公正を図ろうと、野党が提起したテレビのCM規制などの課題に、与党が向き合うことはなかった。野党は独自の改正案を国会に提出しており、本来であれば、与党案と併せて徹底審議すべきだった。

 立憲民主が今回、賛成を決めたのは、CM規制のほか、インターネットの有料広告の制限や運動資金の規制などについて、改正法の「施行後3年を目途」に「必要な法制上の措置」などを講ずると、付則に明記する修正を自民が受け入れたためだ。

 現行法では、改憲案への賛否の投票を呼びかけるCMは、投票日の14日前から禁止されるが、「私は賛成です」と意見表明の形をとれば規制を受けない「抜け穴」が指摘される。また、それ以前は完全に自由なため、資金力がある勢力に有利に働くおそれもある。法制定時以降、影響力を増したインターネットの適正な利用も課題だ。

 言論や表現の自由との兼ね合いに細心の注意を払いつつ、主権者たる国民が適切に判断できるよう、公平公正な「土俵」づくりは欠かせない。付則の規定に従って、与野党は真剣な議論を始めるべきだ。

 菅首相は憲法記念日に、自民党総裁として改憲派の集会に寄せたメッセージのなかで、国民投票法の改正を「憲法改正に関する議論を進める最初の一歩」と位置づけた。しかし、数の力を頼んで、改憲に前のめりになるなら、腰を落ち着けた議論など望むべくもない。憲法審査会は、前身の憲法調査会時代から、党派を超えた丁寧な合意形成を重んじてきた。安倍氏の手法を繰り返してはいけない。