(社説)「こども庁」 器作りより政策遂行を
自民党の若手議員らの提案をきっかけに、菅首相が「こども庁」の創設に意欲を示している。首相の指示を受け、党内の検討組織も立ち上がった。
首相が掲げる「行政の縦割り打破」の看板政策にして、年内に行われる衆院選の目玉公約にしたい。そんな思惑もあるようだが、行政組織の見直し論ばかりが先行し、肝心の、子どもに関する政策の何を、どう変えるのかが聞こえてこない。
大事なことは、保育所の待機児童、後を絶たない児童虐待、子どもの貧困など山積する課題に向き合い、子ども本位の政策をしっかり前へ進めることだ。その具体的な道筋、首相の覚悟を示してもらわねばならない。
若手議員らの提言では、「こども庁」は専任の大臣をトップに、児童虐待、いじめ、自殺、教育格差、貧困、DV(家庭内暴力)などの問題に広く取り組むという。
厚生労働省、文部科学省、内閣府などにまたがる政策の総合調整、司令塔役になるというが、どれだけの権限と人員体制を持ち、どこまで政策を担うのか。旧民主党の掲げた「子ども家庭省」など、同様の構想はこれまでにもあったが、既存の省庁や関係団体の抵抗もあって実現しなかった。選挙で公約にするのであれば、「こども庁」という器だけでなく、具体的な中身の説明がなければ困る。
直面する少子化問題にどう関わるのかも、現時点では判然としない。内閣府には今も少子化担当の特命大臣はいるが、地方創生や孤独・孤立対策も兼務し、十分に力を発揮しているとは言い難い。新たな組織を作るのなら、そこが担うべき喫緊の課題のはずだ。
子どもに関わる政策は多岐にわたり、行政の縦割りの問題があるのも事実だが、政策がなかなか前へ進まない最大の原因は、裏付けとなる予算の脆弱(ぜいじゃく)さだ。国の子ども関係の予算は先進諸国の中でも低水準であることはよく知られている。
税・社会保障一体改革で拡充を目指したが、保育士の配置を手厚くする約束などが、置き去りのままだ。今年度予算では、保育所整備のための費用が足りず、所得が高い世帯向けの児童手当を削ってやりくりした。
こんな現状のもとで、首相はどうやって、これらの施策の拡充を進めるつもりなのか。
「子どもは国の宝」と言うのなら、まずは時期と財源を明示して、関係予算を思い切って増やすことを選挙公約に掲げてはどうか。首相にやる気があればすぐにできることだ。
「こども庁」さえ作れば、子ども本位の政策が進むわけではない。
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