(社説)国の観光支援 感染防止妨げぬ制度に

社説

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 政府が新たな観光支援策を4~5月に実施する。都道府県が独自に行う宿泊割引に対し、1人1日5千円を上限に補助する。対象は、住民が居住する都道府県内での宿泊に限る。

 政府は早ければ6月に、全国を対象にした観光支援策「Go To トラベル」の再開を目指している。今回の支援策はそれまでのつなぎとの位置づけの、いわば「地域版Go To」と言えるものである。

 社説はこれまで、新型コロナウイルスの感染が収束するまでは、通常の不況対策のような需要喚起策はとらないよう政府に求めてきた。

 ただし、感染が抑制できている地域内に限って需要を促すことは、選択肢の一つではあろう。いまも独自の支援策を実施している県が少なくない。

 とはいえ、緊急事態宣言が解除された後も、足元では宮城県山形県大阪府愛媛県などで感染が急拡大していることを忘れてはならない。変異株の影響の分析も不十分なままである。大病院が少ない地方では、ひとたび感染拡大が加速すれば、医療現場はたちまち逼迫(ひっぱく)するリスクがあることに、十分留意する必要がある。

 今回の支援策は、感染状況が4段階のうち下から2番目の「ステージ2」(感染漸増)以下であることを条件とし、実施の判断は全面的に知事に委ねる。知事は感染状況を慎重に見極めて実施の是非を決め、事業を始めたとしても感染拡大の兆しがあれば速やかに停止しなければならない。

 気になるのは、政府が補助金を出すことで、「使わねば損」と、実施をあおることにならないかという点だ。苦境に陥った地元の旅行業者の声に押され、感染状況の判断がゆがむようでは困る。とりわけ、今回の補助金が当面、4~5月の旅行に対象を絞っていることは、実施の判断を急がせることになりかねない。使い残した財源は6月以降にも利用できる制度とし、知事らが落ち着いて判断できるようにすべきである。

 補助金の使途を、割引に限定したことも納得できない。旅行業者への支援には、現金を直接給付する方法もある。使途は政府が決めるのではなく、知事が最適な支援方法を選べるようにするのが望ましい。

 ワクチンの接種が順調に進めば、経済の正常化も見えてくる可能性がある。いま優先すべきは、感染拡大を止め、接種に従事する医療関係者を確保することである。目先の需要拡大を優先してコロナ禍が長期化すれば、旅行業者への打撃は増すばかりだ。そのことを、政府も自治体も肝に銘じる必要がある。

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