(社説)河井議員公判 真相解明はこれからだ

社説

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 外堀を埋められた末の、窮余の方針転換ではないか。「民主主義の根幹である選挙の信頼を損なった」という反省の弁が本心なら、これからも続く公判の中で、遅ればせながらも説明責任を果たし、この前代未聞の大規模買収事件の真相を明らかにしなければならない。

 一昨年の参院選広島選挙区をめぐり、公職選挙法違反の罪に問われている河井克行元法相がきのうの公判で、これまでの無罪主張から一転、起訴内容の大半を認め、責任をとって衆院議員を辞職する意向を表明した。

 克行議員は妻の案里氏を当選させようと、地方議員や首長ら100人に計約2900万円を配ったとされる。現金を渡したことは認めながらも、統一地方選の当選祝いや陣中見舞いなどだったとして、買収の意図を一貫して否定してきた。

 しかし、妻の案里氏は一審の有罪判決を受け入れ、参院議員を辞めた。自身の公判では、証人として出廷した受領者側が次々と、買収の意図を感じたと、検察側の主張に沿う証言をしている。もはや言い逃れはできぬと観念したということか。

 それにしても、なぜこのタイミングなのか。克行議員は拘置所の独房で「自問自答」した結果だと述べたが、額面通りには受け取れない。案里氏の失職に伴う4月の再選挙の告示を間近に控え、自民党への逆風を和らげたいという思惑があったのだとしたら、政局優先の身勝手な判断というほかない。

 きのう始まった克行議員への被告人質問は4月9日まで予定されている。具体的な買収の実態とともにはっきりさせねばならないのが、その原資である。

 案里氏陣営には、自民党本部から、同じ選挙区で落選した現職の10倍にあたる1億5千万円の活動資金が提供された。うち1億2千万円は税金による政党交付金である。買収とは無関係だというなら、具体的な使途をすべて明らかにしてもらわなければ納得できない。

 資金を渡した自民党も重い責任を負っているというのに、二階俊博幹事長は「他山の石として、しっかり対応していかなくてはならない」と、人ごとのような発言をした。克行議員はすでに離党しており、もはや関係ないと言わんばかりだ。先の自民党大会で採択した運動方針の前文に「常に自らの政治行動を省みながら襟を正して国民に訴えていく」とあるのは空文か。

 事件の背景には、当時の安倍政権が案里氏陣営に異例のテコ入れを行ったことがある。菅首相は当時の官房長官であり、克行議員は自身の側近でもあった。無関係を決め込むことが許されないのは、菅氏も同じだ。

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