(社説)中国海警法 海洋の緊張を高めるな

社説

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 中国の行動は地域の平和と安定を揺るがしかねない危うさをはらんでいる。力によって一方的に現状を変えようとすることはやめるべきだ。

 尖閣諸島周辺で中国海警局の船舶の活動が活発化している。度重なる領海侵入に加え、昨夏からは日本の漁船を執拗(しつよう)に追いかける動きも目立っている。

 中国公船は年々、大型化などの増強が進む。自らの主張に合わせた既成事実を強引に築くねらいのようだが、認めるわけにはいかない。

 領有権問題を争う南シナ海でも、中国は岩礁の埋め立てなどの拡張路線を進めてきた。

 いずれも「法の支配」にもとづく既存の国際秩序への露骨な挑戦にほかならない。

 「ルールと制度によって各国の関係は調整されるべきだ。強者が弱者をいじめることには反対する」。習近平(シーチンピン)国家主席は最近、そう演説した。

 まさにその通りである。ぜひともその考えを自らの行動で示してもらいたい。

 中国海警局の役割と権限を定めた中国海警法が施行されたことも、波紋を広げている。

 この法律は、海警局の船舶に武器使用を含む強力な権限を与えた。防衛活動にも参加できる準軍事組織との位置づけだ。

 さらに、「管轄海域」などのあいまいな表現が多用された。運用次第で国際法に反する可能性があると指摘される。

 まるで法律の不透明さを利用した「脅し」のようだ。これでは日本だけでなく、フィリピンベトナムなどの周辺国が不安を感じるのは当然だろう。

 こうした動きを受け、日本の対応策をめぐる議論が続いている。多様な任務が増している海上保安庁の態勢を拡充するのは、必要な措置であろう。

 一方で、自衛隊の速やかな出動に向けた法整備などを求める声も一部で出ているが、過剰反応は慎むべきだ。冷静な議論を慎重に進めなければ、中国側の挑発にのせられて事態を悪化させることにもなりかねない。

 中国に強い懸念を直接伝えると同時に、意思疎通のチャンネルを広げる必要がある。

 偶発的な事態に備え、日中の危機管理メカニズムづくりを急ぐべきだ。両国は防衛当局のホットライン開設に合意したが、いまだに実現していない。

 肝要なのは、負の連鎖に陥らぬよう、外交による環境整備を着実に進めることである。

 米バイデン政権は同盟関係の修復と、アジアへの多面的な関与を深める意向を示している。日本はその米国とともに、懸念を共有する地域の国々との協働を広げ、中国の行動変化を粘り強く促していくべきだろう。

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