(時時刻刻)違反40年、薬の安全軽視 「ルールより効率」社長謝罪 小林化工、業務停止=訂正・おわびあり

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 ジェネリック薬(後発薬)を製造販売する福井県あわら市の小林化工が、県から過去最長の業務停止命令を受けた。法令違反は40年ほど前から繰り返され、経営陣も長年黙認したことが判明。患者から不安の声があがるなか、国の後押しで急成長した後発薬業界は影響を懸念する。▼1面参照

 「患者様に甚大なる健康被害を発生させましたことを改めて心から深くおわび申し上げます」

 福井県あわら市の小林化工では9日、午後5時半から小林広幸社長ら幹部が会見を開いた。小林社長は繰り返し頭を下げ謝罪し、辞意も表明した。

 県は過去最長116日間の業務停止処分をしたおもな根拠として、法令違反の常態化と経営陣が違法性を認識するなど、製品の安全性をないがしろにした同社の姿勢を挙げた。

 県によれば、皮膚病薬イトラコナゾール錠50「MEEK」の製造では2人で行うべき原料の取り出し作業を1人でしたり、厚生労働省に承認された手順に従わず原料をつぎ足したりしたと指摘。さらに同社工場では約40年前から出荷前に品質検査をしていないのにしたとする虚偽記録を作成するなどの法令違反が常態化していたとした。

 さらに県が年2~4回実施した立ち入り検査で発覚を免れるため、少なくとも2005年から虚偽の製造記録(二重帳簿)を作り、承認通りに作業したよう装い続け、二重帳簿と承認外手順書は延べ約390製品で確認された。

 県が「最大の問題」としたのが、経営陣が法令違反を認識していながら黙認したことだ。

 県によると、小林社長は薬の製造管理の責任者を05~07年に務め、05年から違法行為を把握。社長は県の調査に「当時から問題だと思っていたが、年数が経って改善されたと思っていた」という趣旨の説明をしたという。小林社長は会見で「現場は法令、ルールより効率を優先した。出荷に間に合わせるため場当たり的な対応が常態化していた」と述べた。

 福井県立大生物資源学部の村上茂教授(薬理学)は「従業員を教育する発想がなかったのではないか。会社のもうけを優先して黙認していたといわれても仕方がない」と指摘する。(三井新、鈴木智之)

 ■後発薬に特化、急成長

 後発薬の市場は近年拡大を続ける。

 市場調査会社「富士経済」(東京)によれば、2017年から毎年500億円規模で拡大し、18年は9557億円。今年は1兆1826億円に膨らむ予想だという。

 日本ジェネリック製薬協会(同)の調べでは、先発薬と後発薬がある場合、後発薬が全体に占める使用割合は78・9%(20年7~9月期)と、13年同期の47・3%から急増している。

 業界が拡大する背景には、医療費を抑制するため、後発薬の利用を促進してきた国の後押しがある。

 例えば、国は02年、後発薬を処方すれば、診療報酬と調剤報酬が各2点加算される制度を導入。病院と薬局から後発薬が選ばれやすくした。さらに、調剤報酬は10年度、後発薬の処方量に応じて最大17点が加点される仕組みとした。

 市場参入する企業も増加。厚労省によると、後発薬メーカーは国内約200社に上る。

 1946年創業の同社は、60年代から参入したが業績を急速に伸ばしたのは国が後発薬の利用促進を打ち出した2000年代からだ。02年度は約30億円だった売り上げは19年度は約370億円に。現在約500の後発薬を製造する。新工場や物流センターも次々新設。昨年10月時点の従業員は約800人で、09年度の約210人の4倍近くまで増えた。(市原研吾)

 ■不祥事の影響、薬業界は懸念

 後発医薬品は、先発薬の特許が切れた後に販売され、開発費が少なく価格は安く抑えられる。先発薬と同一の有効成分で作られ、効き目は同等という厚労省のお墨付きも得ている。

 医療現場では、かつて使い慣れた先発薬を求める意向が強かったが、後発薬の製剤技術は進歩し、苦みなどが減るよう味を改良するなど飲みやすく工夫された後発薬も少なくないと専門家は指摘する。

 「業界が積み上げた信頼が崩れないか心配だ」。ある後発薬メーカーの担当者は小林化工による一連の不祥事の影響を懸念する。

 調剤薬局を営む企業でつくる社団法人「日本保険薬局協会」が1月に実施した調査では、小林化工の薬を扱う薬局の自由記述欄に「『先発薬へ戻したい』とする患者の要望が増えた」との記述が複数あったという。主要40社でつくる日本ジェネリック製薬協会も1月、会員企業に対し承認外手順で作った薬がないか確かめると発表した。

 問題の薬を服用し、丸一日の記憶がなかったという岐阜県の女性(30)は「品質に問題がないから後発薬は出回っていると思っている。患者は信用して飲むしかない。業界に共通する問題点がないかをチェックしてほしい」。(松浦祐子、平野尚紀)

 ■小林化工の混入問題の経緯

 <2020年6月1日> イトラコナゾール錠50「MEEK」のロット番号T0EG08の製品の製造を始める

 <9月28日> 同製品の出荷開始

 <12月1日> 初めて健康被害が報告される

 <4日> 同社が問題公表。健康被害の訴えが相次ぎ、100錠入り929箱の自主回収を始める

 <9日> 福井県が立ち入り調査

 <10日> 首都圏の病院に入院していた服用者の70代女性が死亡

 <12日> 小林広幸社長が「責任の重大さを痛感している」と謝罪

 <14日> 県警が現場担当者から説明を聞く。同社が全製品の出荷を停止

 <17日> 中部地方で入院中の80代男性が11月に死亡したと発表。処方された全員に慰謝料30万円を支払うことも発表

 <21日> 厚生労働省が県などと合同で立ち入り調査。複数の薬が承認外の手順で製造されたと同省幹部が説明

 <24日> 出荷前の品質検査の不備などで同社が14製品の自主回収を開始

 <21年1月8日> 県が報告書を出すよう同社に求め、年度内に処分する方針を発表

 <20日> 同社が県に報告書提出

 <27日> 品質維持の検査の未実施などで、同社が22製品の自主回収を開始

 <2月9日> 県が同社を過去最長の116日間の業務停止処分に

 <訂正して、おわびします>

 ▼10日付総合2面「小林化工 業務停止」の記事で、「薬剤業界の調査会社『富士経済』」とあるのは、「市場調査会社『富士経済』」の誤りでした。富士経済は薬剤業界の調査に特化していません。確認が不十分でした。

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