(社説)長男の官僚接待 菅首相 人ごとではない
自助を重視し、親の威光や社会的地位を後ろ盾にした政治家の世襲に反対してきたのが、菅首相ではなかったか。長男は「別人格」と人ごとを決め込んでいては、その政治信条まで疑われかねないと心すべきだ。
放送行政を所管する総務省の谷脇康彦総務審議官ら幹部4人が昨年10~12月、衛星放送や番組制作を手がける東北新社に勤める首相の長男らから接待を受けていたことが、週刊文春の記事で明らかになった。手土産や帰りのタクシーチケットも受け取っていたとされる。
総務省は国家公務員倫理規程に違反する可能性があるとして、人事院の国家公務員倫理審査会とともに調査を始めた。
倫理規程は、利害関係者から供応接待を受けたり、金品を受け取ったりすることを禁止している。自分の分の費用を支払う会食は認められるが、1回1万円を超える場合は事前の届け出が必要だ。しかし、幹部らが届けを出したのは、週刊文春の取材を受けた後だった。
4人のうちの1人、秋本芳徳・情報流通行政局長は衆院予算委員会に出席し、東北新社側の負担で会食をした事実を認めたが、当時は利害関係者が同席しているとは思わなかったと釈明した。到底納得できない。今になって費用を返金したというが、調査中を理由にその金額を明かすこともなかった。
行政の公平性・中立性への信頼を傷つける事態である。なぜ接待に応じたのか、報じられた4件だけなのか、政策判断に影響はなかったのか、総務省は徹底的に調査し、厳正な処分を下さねばならない。
解せぬのは首相の対応だ。
事実関係の確認はすべて総務省任せ。長男とは直接、電話で話したというのに、会社の調査に協力するよう伝えただけで、報道内容の真偽をただすこともしなかったという。
首相は小泉政権で総務副大臣、第1次安倍政権で総務相を歴任し、省内に強い影響力を持つ。大臣時代はこの長男を、大臣秘書官に起用もした。今は公的立場にない「一民間人」というが、総務官僚の側からみれば、その背後に首相の存在を見るのが当然だ。
安倍前政権下の森友学園、加計学園、桜を見る会をめぐる一連の問題に共通するのは、時の首相と親しい人たちが便宜を受け、全体の奉仕者たるべき官僚までがそれを支えたのではないかという疑いである。
首相の威光を背景に、一般人には及ばない影響力を行使していたのだとしたら、政治や行政への信頼は揺らぐ。首相はそのことを重く受け止め、疑念の解消に指導力を発揮すべきだ。
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