(社説)五輪の行方 現実踏まえた対応急げ

社説

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 東京五輪の開催を危ぶむ声が国内外に広がる。

 朝日新聞が23、24日に実施した世論調査では、再延期もしくは中止と答えた人が86%にのぼった。世界で新型コロナの感染が収まる気配がなく、国内の医療態勢も逼迫(ひっぱく)するなか、当然の受け止めと見るべきだろう。

 しかし決定権をもつ国際オリンピック委員会(IOC)、運営を担う日本の組織委、政府、都などから聞こえてくるのは、「プランB(代替案)はない」「コロナに打ち勝った証しとして開催する」といった、根拠不明の強気の発言ばかりだ。

 人びとの疑問や懸念に向き合い、とりうる道をともに探ろうという姿勢はうかがえず、言葉を重ねれば重ねるほど、溝が深まる悪循環に陥っている。

 社説は昨春に延期が決まって以降、「完全な形」(安倍前首相)に縛られることなく、▽無観客での開催を含め、いかなる選択肢が考えられるか▽その場合どんなメリット、デメリットがあるか▽何を判断指標とし、いつまでに答えを出すか――を明らかにして検討を進めるよう繰り返し主張してきた。

 前例のない事態に直面し、それでも五輪への求心力を維持しようとするなら、適切な情報開示と議論の透明化、衆知の結集が不可欠だと考えたからだ。

 ところが開催者側はその努力を怠り、延期に伴って増える経費の削減策をめぐって角突きあわせるなどして、逆に不信を深めた。

 五輪の主役である選手の間でも、準備状況に関する説明の不足を指摘し、道筋が見えないことへの不安を訴える声がしきりだ。開幕まで半年を切ったいま、納得できる工程表を速やかに示すことを、改めて訴える。

 何より大切なのは市民の命と生活を守ることだ。計画では、選手や観客、ボランティアの健康管理のために医師や看護師ら1万人の協力を得ることになっている。しかし医療現場への負荷を考えると実現不可能なのは明らかだ。ワクチンに期待を寄せるのも難しい情勢にある。

 世界の人が集い、スポーツを通じて平和の尊さを共有することに五輪の意義はあるが、ここは「ゼロ」を含む大幅な観客制限を始めとして、状況に即した合理的な判断が求められよう。

 国や競技によっては、代表選手を決める大会を開けるか不透明なところもある。競技スポーツの存立を支える公平性をどう担保するか。開催までにはこうした難題も立ちはだかる。

 IOCは27日に理事会を開く。人びとの理解と共感を得るために、この局面で何をなすべきか。世界の目が注がれていることを自覚してほしい。

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