(社説)来年の春闘 経済萎縮の悪循環防げ

社説

 新型コロナウイルスの感染がまたも広がり、経済の先行きは不透明感が拭えない。足取りが重い景気の回復を後押しするためにも、経営が揺らいでいない企業は、着実な賃上げで働き手に報いるべきだ。

 労働組合の中央組織である連合が、来年の春闘に向けた方針を打ち出した。定期昇給2%の確保を大前提に、企業規模や雇用形態の違いによる格差を是正する取り組みを強め、賃金の最大限の「底上げ」を追求するという。「2%程度の賃上げ」というベースアップの目標も例年通り掲げた。

 一方、経団連の中西宏明会長は9月の記者会見で、来春闘では「従来型の相場観をもった賃金水準の議論は難しいのではないか」と発言した。コロナ禍で「雇用維持へのプレッシャーが大きくなっている」ことを理由に挙げている。

 今年度の日本経済は5%程度の大幅なマイナス成長が予想されており、企業も減益予想が目立つ。非正規労働者や女性などを中心に、雇用情勢も悪化している。賃上げへのハードルは一見、高そうだ。確かに、飲食や宿泊、交通など、収益が急激に悪化した業界では、賃金よりも雇用維持を優先せざるをえない場合もあるだろう。

 ただ、コロナ禍による打撃は業種や企業によってバラツキが大きい。「巣ごもり需要」やデジタル化で好業績の企業も少なくない。ワクチンの開発や普及が進めば、相応の回復が見込める期待もある。

 加えて、各国の政府や中央銀行はかつてなく大規模な財政・金融政策で企業活動を支えてきた。そうしたことが相まって、株式市場は堅調どころか過熱気味にも見えるのが現状だ。

 そもそも、一昨年までの景気回復で好業績を享受し、財務体質を強めてきた企業も多い。こうした局面こそ余力を生かし、組合側の要求に可能な限り応え、賃金改善に取り組む必要がある。賃金が上がらず、デフレの悪循環に後戻りするようでは、企業自体の首を絞める。

 一方で、コロナ禍が社会の一部にしわ寄せをもたらしつつあることにも目を向けるべきだ。失業や所得減に実際に直面している働き手に対しては、政府による生活維持や転職支援の充実が求められる。新卒採用の悪化で「就職氷河期」が再来するようなことも防がねばならない。

 異例の状況が続くなかで、山積する課題にどう臨むか。連合や春闘の役割も例年以上に問われてくる。経営側も、経済の好循環に向かうためには何が必要か、熟慮すべき局面だ。双方とも議論を深め、内実のある交渉を実現するよう望みたい…

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