(社説)自民党総裁選 「内向きの論理」優先だ

社説

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 7年8カ月に及ぶ長期政権の総括も、「コロナ後」の社会や経済を見据えた議論も、脇に置いたまま、派閥を中心とした多数派工作が先行する。あまりに「内向きの論理」が優先されていると言わざるを得ない。

 安倍首相の後継を選ぶ自民党総裁選は、菅義偉官房長官岸田文雄政調会長石破茂元幹事長の3氏を軸とした展開となっている。無派閥の菅氏に対し、二階俊博幹事長が率いる二階派に続き、首相の出身母体で最大派閥の細田派や第2派閥の麻生派が支持する方針を決めた。

 そんななか、自民党はきょう、新しい総裁の選出方法を決める。首相から対応を一任された二階氏は、全国の党員・党友による投票を省略し、両院議員総会で国会議員と都道府県連の代表のみで決める方式を採用する方針だ。

 確かに、自民党の党則は、「特に緊急を要するとき」は両院議員総会での選出を認めている。第1次政権の安倍首相、その後を継いだ福田首相それぞれの辞任時などに、この方式が採用された。しかし、党員らの重要な権利である投票権を奪ってまで、新総裁選びを急がねばならない状況にはみえない。

 国会は閉会中であり、喫緊の課題であるコロナ対応については、切れ目が生じないよう、首相が辞任表明の記者会見で、秋冬をにらんだ追加対策を発表している。後任に引き継ぐまでは、首相が責任をもって職務を続けるわけで、深刻な政治空白が生じるとは思えない。

 結局のところ、党員投票を避けるのは、過去の総裁選の地方票で善戦した石破氏の力をそぎ、国会議員の合従連衡で帰趨(きすう)を決めたいという思惑からではないのか。

 政府のコロナ対応に国民の不安や不満が高まっている現状も考えれば、より有権者に近い党員・党友の声に幅広く耳を傾けるべきだ。それは、新首相の政治基盤を強めることにもつながろう。

 若手議員や地方組織の間から、党員投票を求める声が上がっている。民意との乖離(かいり)を恐れる現場の危機感を執行部は重く受け止めるべきだ。

 今回の総裁選で問われるのは、単に「ポスト安倍」に誰が就くのかではない。異例の長期政権の功罪を見極め、何を引き継ぎ、何をどう改めるのか。それは、内政・外交全般にわたる政策にとどまらず、政治姿勢や国会対応、国民への向き合い方にまで及ぶ。

 相変わらずの派閥主導を繰り返すのか、自由闊達(かったつ)な論争を国民の前で繰り広げるのか、政権党の責任もまた、厳しく問われている。

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