(社説)安倍改憲 首相が自ら招いた頓挫

社説

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 念願の改憲を果たせぬまま、安倍首相が辞意を表明した。

 その大きな理由は、二つの点で安倍氏自身にある。

 まず、米国の占領下で制定された現憲法を何でもいいから変えたいという「改憲のための改憲」だったこと、そして現にある条文や議論の蓄積を平然と無視して、不信を深めたことだ。

 安倍氏は初めて首相となった後の07年の年頭記者会見で「憲法改正を私の内閣でめざしていきたい。参院選でも訴えていきたい」と表明した。

 当時は改憲手続きを定める国民投票法の制定に向け、与野党協議が進んでいた。だが安倍氏が改憲を選挙の争点とする考えを示したことを機に決裂。議論を重ねるなかで、改正の当否も含めて憲法問題を考えていこうという機運は失われた。

 12年に首相に返り咲いてすぐに打ち出したのが、96条の改正だ。96条は、改憲案を国民投票にかけるには衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成が必要と定めるが、これを過半数に引き下げようというものだ。

 手始めに、改正へのハードルをまず下げてしまおうという提案には、改憲を否定しない人たちからも「裏口入学だ」との批判が噴出。安倍氏も引っ込めざるを得なくなった。

 その後も改正をめざす条項は二転三転し、17年の憲法記念日に掲げたのが「9条に自衛隊を明記する」という案だった。

 安倍内閣はその3年前に、集団的自衛権の限定行使を閣議決定で認めている。歴代内閣が「9条を変えない限り集団的自衛権は行使できない」との憲法解釈をとってきたのを、あっさり覆しての決定だった。

 主権者である国民に正面から問わないまま実質的な改正に踏み切りながら、今度は「自衛隊員に誇りを与えたい」という理由で明文改憲を唱える。国の最高法規を都合よくねじ曲げる姿勢があらわだった。

 衆院の解散権をほしいままに行使し、53条に基づく国会の召集要求を拒み続けたのも、憲法軽視という点で同根だ。

 野党や批判勢力に必要以上の敵対姿勢をとる安倍氏の政治スタイルは、丁寧な議論を通じて幅広い合意を形成し、国民に問うという憲法改正のルールにはそもそもそぐわなかった。

 何よりも、豊かで安心・公正な社会を築いたり、国民の意思を政治に正しく反映させたりするうえで、いまの憲法のどこに問題があり、どう正せばいいのかという、根源的な議論を欠いていた。

 今後の憲法論議にあたっては、自民党がまず態度を改め、いびつな「安倍改憲」の手法をリセットすることが不可欠だ。

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